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時代とニーズに即した 「学ぶ」、「つながる」ための情報提供を目指す

トップランナーたちの仕事の中身#083、84

中司安里さん(医療法人社団仁恵会石井病院、管理栄養士)
小野美咲さん(中村学園大学栄養科学部栄養科学科講師、管理栄養士)

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左:中司安里さん 右:小野美咲さん

 2023年9月、4年ぶりに対面式での開催となった全国栄養改善大会。栄養改善のための先駆的な活動に従事し顕著な功績が認められる管理栄養士・栄養士等を表彰する大会で、厚生労働大臣表彰・日本栄養士会表彰などが授与されます。日本栄養士会表彰のひとつ、「栄養改善奨励賞(森川賞)」は、栄養改善や食生活改善事業の普及、進展に功績が認められ、今後の活動が期待される若い世代に贈られます。2023年度の受賞者、中司安里さん、小野美咲さんに受賞の対象となった活動等についてうかがいました。

オンラインとSNS活用で会員の学ぶ意欲に応えたい
中司安里さん

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 管理栄養士の中司安里さんが森川賞として評価された功労の1つに、新たなオンライン環境整備への取り組みがあります。
 2020年、新型コロナウイルス感染症の発生に伴う外出制限により、中司さんが理事を務める公益団法人兵庫県栄養士会は理事会、総会の開催がままならず活動の縮小を余儀なくされました。加えて、コロナ禍の終息が見通せない中、これまで対面で行ってきた研修会のあり方にも、早急な対策が迫られていました。この状況下で、中司さんが理事会にいち早く提案したのがオンライン技術の活用でした。並行して、公益社団法人日本栄養士会から推奨されたオンラインツールを参考に、導入しやすいツールの比較研究を自主的にスタート。理事会での協議承認を経て、2カ月という短期間でオンラインによる理事会の開催を実現させました。

 これをきっかけに兵庫県栄養士会では会議だけでなく、生涯教育、研修会等もオンラインもしくは、対面とオンラインを併用したハイブリッド対応のいずれかで進める流れが生まれ、縮小していた会活動の早期改善につながりました。
 「短期間でオンライン導入が実現したのは、会長をはじめ、理事の方々が『新しいことはどんどん取り入れて』という姿勢で後押ししてくださったことが大きかったと思います」と中司さん。
 しかし、導入当初にはトラブルも。「オンラインの利用が初めての会員が多く、操作が不慣れなことから、会議中に画面の共有がうまくいかなかったり、マイクやカメラの使い方が分からず、開始が20~30分遅れたりすることがありました」
 そこで中司さんはオンライン操作のマニュアル作りを発案、制作に立候補しました。
 「実は、私もオンライン初心者でしたが、分からないことは一つひとつ調べれば解決していけると思い、マニュアル作りに不安はありませんでした。だれもが分かりやすいマニュアル作りを目指し、カメラ、マイク等必要な機器の紹介と接続や扱い方から始め、パソコンの操作手順は写真を多く添えて一目で分かるようにしました。でき上がったマニュアルは、おかげさまで好評です。今は利用した会員の方からの声をもとに、さらに使いやすいように随時、説明を追加しています」

オンライン研修の充実を実現

 中司さんが率先してオンライン導入とマニュアル作りに取り組んだのは、コロナ禍前から感じていた会員の要望をかなえたいからだったといいます。
 「兵庫県は県境からは神戸市にある事務局まで片道2 ~ 3時間かかることもあります。そのため、研修会に参加したくても時間的な問題で諦める方も少なくありませんでした。また、育児や介護等家庭の事情で外出が難しい会員がいることも潜在的な問題でした。オンライン整備とマニュアル化を実現すればこうした問題の改善策になると思っていました」
 中司さんの予想通り、生涯教育やスキルアップ研修会、JDA-DAT研修会等の参加者数はオンライン導入後、3年間で約3倍に増加し、勉強を続けたい会員の要望をかなえるとともに、兵庫県栄養士会の資質向上につながりました。
 中司さんが兵庫県栄養士会の医療職域理事として企画したのが、会員を対象にした『オンラインお悩み相談会』です。
 「兵庫県栄養士会の伝統として、仕事の悩みがあったら気軽に相談できるアットホームさがありました。『オンラインお悩み相談会』はコロナ禍で人とのつながりが希薄になり、孤立感を覚える会員が増えることを防ぎ、施設に管理栄養士・栄養士の同僚がいない"1人栄養士"の悩みを解消するために考えた企画です。座談会形式の気軽な雰囲気で自宅や職場から参加でき、会員同志の交流につながっています。会場費がかからず、経費削減になるのもオンラインのメリットです」

SNSの情報発信に力を注ぐ

 中司さんはSNSの活用も積極的に行っています。JDA-DATリーダーとしてスタッフ研修プログラムに阪神・淡路大震災を経験したノウハウが詰まった兵庫県栄養士会版災害時のアクションカードの組み込みや、日本栄養士会が開発導入したDiMS(Dietitian Matching System)を用いて、災害時の初動体制整備に取り組んでいます。さらに、自治体が主催する防災訓練等にも積極的に参加し、日本医師会災害医療チーム(JMAT)や一般社団法人日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)と連携した避難所巡回指導も実施しています。
 「今の目標は、情報発信の主流となりつつあるSNSの充実です。兵庫県栄養士会のInstagramの投稿を数人の理事と担当していますが、JDA-DATに関する投稿は災害支援車両(JDA-DAT号)をモチーフにしてかっこよく、生涯教育については堅苦しさを感じさせないようにおしゃれ感を出す、『オンラインお悩み相談室』は気軽に来ていただけるように優しい雰囲気にする等、ターゲットに合わせたデザインを工夫しています。これからも、正確な情報を一目で分かりやすく届けることで会員増や会員の技術向上に貢献していきたいと思います」

実践に役立つ研究能力の養成と学びの場の提供を目指す
小野美咲さん

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 管理栄養士の小野美咲さんは、中村学園大学栄養科学部講師として1年生に基礎栄養学、3年生には付属医療施設である栄養クリニックを活用した校外実習に向けた教育を行う一方、公益社団法人福岡県栄養士会では2020年から2期にわたって理事を務める日々を送っています。
 森川賞受賞に際した小野さんの功績の1つに、会員の研究能力の向上を目的とした研修会の講師を務めたことが挙げられます。
 「2018年に講師の依頼をいただき、4年間ほど研修会を行いました。これまでもデータ解析の研修会は行われていましたが、統計や分析の手法の説明に重点が置かれていて、例題として扱うデータは業務では使わないものも含まれていました。
 研修を受けた会員からは、『実際の仕事にどう役立てれば良いのか分からない』、『内容が難しい』といった指摘がありました。こうした反省を含め、講師の依頼をしていただいた理事と相談し『より実践的な内容の研修』を目指しました。管理栄養士・栄養士の職域はとても広く、病院や福祉施設等実際に働く職域ごとに適した研究テーマがあると思います。それを見つけ出す能力を伸ばすことと、職場に戻ってすぐに活用できる実践的な内容を心掛けました」

 研修会では、普段の仕事の中から研究テーマになりそうなものを選ぶ視点のレクチャーから始め、次に参加者が研究テーマを決め、各人が集めたデータをもとに具体的な解析方法の指導を行いました。
 「参加者は15人ほどの少人数制にし、個別にアドバイスを行い、それを参考に各自で作業を進めるというマンツーマンに近い形で指導しました。最終回にはPowerPointを使って仕上げるところまで実習し、作業が終わらなかった方にはオンラインやメールでやりとりをして、全員が最後まで仕上げるところまでフォローしました」

研修から生まれる次のテーマ

 参加者のうち11人が学会発表を行い、学会発表には至らないものの業務に生かせるデータ収集と解析ができるようになり、参加者の満足度は95%に上る成果となりました。
 「私は大学という研究施設にいるため、病院や福祉施設で得られる生のデータを熟知しているわけではありません。一方、現場で働く方たちは、業務の中で得られるデータが研究につながるという認識があまりありませんでした。両者がタッグを組むことで現場のデータが業務の改善やより良い指導に生きてくることを、参加者も私も発見できたことが大きな収穫でした」
 この研修会の講師を務めたことで、次の研修会の企画も生まれました。
 「統計解析をする前の作業としてデータの収集、整理がありますが、WordやExcel、PowerPointを使いこなせていない点が浮き彫りになりました。2022、2023年の研修会ではExcel、PowerPointの実践的な使い方の企画を提案したところ、多くの参加者が集まりました。業務にパソコンは欠かせない時代ですので、こうした企画は今後も充実させていければと思います」

地域に根づいた健康啓発活動

 福岡県栄養士会の理事としての活動は、地域包括ケア会議に管理栄養士としての参加、市民糖尿病セミナー等の運営、県民の健康増進啓発活動等多岐にわたります。
 「健康増進啓発活動には、栄養ワンダーを利用したイベントを開催しています。今年は『栄養の日・栄養週間』を広めるために、勤務する大学で学生に向けて『栄養ワンダーブック2023』と協賛社提供商品の配布や、地域在住の高齢者を対象に健康測定や栄養相談を行うイベントを行いました」
 コロナ禍で中止していた対面式イベントが今年に入って開催できるようになったことは、オンラインとは異なる手応えを得る機会にもなったといいます。毎年、開催してきたイベントである『栄養フェスティバル』もその一つ。2020~2021年はコロナ禍で中止、2022年は規模を縮小して開催し、ようやく今年になり通常通りの開催がかないました。
 「健康測定、栄養相談、管理栄養士がメニュー考案したお昼ご飯の提供等が県民、市民の方から好評をいただいているイベントです。中でも人気なのがお昼ご飯です。今年は東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取の多様性スコアを構成する食品群の頭文字を表した『さあにぎやか(に)いただく』の全ての食材を使ったカレーライスを提供しました。来場者の『1品で健康に良い食材が取れるから、家でもやってみる』といった生の声やうれしそうな笑顔に接することができ、対面での交流の大切さを再認識できました」

 最後に、大学講師として管理栄養士・栄養士を養成する立場にある小野さんの今後の目標をうかがいました。
 「社会に出てからも学びたい、研究したいという気持ちをかなえられる環境を教育者、栄養士会に所属する先輩栄養士として整えておかなければと考えます。1人栄養士のためのオンライン勉強会を開催して横のつながりを強化したり、福岡県栄養士会のホームページをリニューアルしたりして、ホームページ、LINE、Instagram等を活用し、今後も1人でも多くの管理栄養士・栄養士を支援する活動を続けていきたいと思います

中司安里さん プロフィール:
2012年神戸学院大学栄養学部栄養学科卒業。総合病院で管理栄養士としての勤務を経て2013年より医療法人社団仁恵会 石井病院に転職。公益社団法人兵庫県栄養士会理事、日本糖尿病療養指導士、がん病態栄養専門管理栄養士、NSTコーディネーター、JDA-DATリーダー。公益社団法人兵庫県栄養士会所属

小野美咲さん プロフィール:
2006年中村学園大学栄養科学部栄養科学科卒業、2013年中村学園大学大学院栄養科学研究科博士課程修了。2019年から中村学園大学栄養科学部栄養科学科講師を務める。公益社団法人福岡県栄養士会理事。日本栄養改善学会、日本肥満学会、日本病態栄養学会、日本癌学会、日本がん予防学会、日本栄養改善学会評議員。公益社団法人福岡県栄養士会所属。

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