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嚥下訓練開始初期食の確立とその効果に関する研究

○小栗裕子1 、畑山洋子1 、佐々木達人1 、代田久美子1 、古川仁 1、高田明美 1、田代志保子1 、安藤みゆき1 、板倉忍1 、月木和絵1 、大平貴彦1 、竹内佳史1 、佐々木朱美1 、高沢智弘1 、小松純子2
1健和会病院栄養科、2健和会病院言語聴覚士)
 
1. はじめに
 摂食・嚥下障害者に提供する嚥下訓練初期の適切な食事形態について、食事提供部門とリハビリ担当部門の言語聴覚士が連携して研究を行ったので報告する。
 

2. 研究目的
  摂食・嚥下障害者に提供する食事(嚥下食)に求められる条件は、誤嚥の危険の少ないものであり、安全性が最も優先されなければならない。また、嚥下障害者の栄養状態改善のためには、嚥下食は、安全であるとともに、おいしく食べられるものであることも重要であるが、市販嚥下食、特に嚥下訓練開始時に提供される食事(嚥下訓練食)の種類は非常に少なく、バラエティーに富んだ食事の提供が困難な状況にある。そのため、バラエティーに富んだ嚥下訓練食の提供は、食事提供者の努力に委ねられているのが現状である。
  本研究では、言語聴覚士と栄養科が連携して、安全性、栄養価、味などを考慮しながら、種々の固形化嚥下訓練開始初期食を開発し、嚥下状態等の効果について検討した。

 
3. 方 法
1) 嚥下造影による食品形態の比較
 嚥下訓練開始初期食に最も求められる条件は、誤嚥の危険の少ないものであり、その条件を満たす食品の形態は柔らかく、滑らかなゼリー状のものがよいとされている。そこで、本研究では嚥下食として従来から使用されているミキサー食を、固形化補助剤でゼリー状に固めた固形化食を作成し、ミキサー食と固形化食について、誤嚥の状況などの嚥下過程の相違について観察した。嚥下過程は、健和会病院入院の摂食・嚥下障害者について、嚥下造影による咽頭残留量について調べた。
 
2) 嚥下訓練食(固形食)の開発
 肉、魚、卵、豆腐、煮物、フルーツ缶詰、和え物、汁物など、種々の食材を用いてバラエティーに富んだ嚥下訓練開始初期食(固形化食)を作成し、安全性、 栄養価、味について検討した。
(1) 固形化食の調整
 固形化食の調整に際して、すべての食材はミキサーで細かく粉砕した。ミキサーは超高速ミキサー(図1)を用いることにより、繊維の多い海藻類・きのこ・根菜類・種実類も短時間で滑らかなミキサー食ができるようにした。なお、ミキサーで細かくなりにくい食品は、下処理として圧力鍋を用いて軟らかく煮てから、ミキサーで粉砕した。
  今回開発した固形化食は、ミキサーで粉砕した食材に固形化補助食品(商品名:ソフティア2)を加えて、冷やし固めることにより調整した。固形化補助食品は、ミキサー食の重量の0.1%の精度で計測した。
(2) 不足栄養素の強化
 嚥下食で十分な栄養量を確保することは難しく、特にビタミンやミネラルなどの微量栄養素の確保は困難である。そこで、褥創対策も考慮に入れて、日本人の食事摂取基準(2005年版)による70歳以上の女性の基準量を満たすように、鉄、亜鉛、ビタミンCの強化を行った。微量栄養素補助飲料(商品名:ブイ・クレスα)および鉄・亜鉛強化食品(商品名:ごはんで鉄亜鉛)を用いた。ビタミンCの強化は、固形化食調整時に市販のサプリメント製剤を添加した。
 
4. 結 果
1) 食品の形態が咽頭残留量に及ぼす影響
 今回調整した固形化食の嚥下過程を、内視鏡により従来のミキサー食の場合と比較した。その結果、咽頭に残存する状況はミキサー食に比べて、固形化食でより危険性が少ないことが観察された。
 この観察によって、ミキサー食に比べて、固形化食は嚥下訓練開始時の食事として、より適切であると評価された。そのため、これまでミキサー食として提供していた食事を含めて、出来る限り多くの食事を固形化補助食品による固形化を行い、2005年10月より提供を開始した。
 
2) 嚥下訓練食(固形化食)の開発
 肉、魚、卵、豆腐、煮物、フルーツ缶詰、和え物、汁物などの食材を用いた固形化食の調整法について、固形化補助食品の割合を中心に検討した。その結 果、固形化補助食品の添加割合は、食材の種類によって調整が必要であること、また同一食材であっても、収穫時の水分含有量に差があるため、固形化の硬さを平均化するためには微調整が必要であることがわかった。同じ食材を用いても、調味料の種類の違いによって、固形化に最適な固形化補助食品の割合は異なることもわかった。
 表1に例示したように、本研究では普通食として提供されているさまざまな食材(料理)を用いて、バラエティーに富んだ固形化食を開発し、毎食それらを組み合わせることにより、味覚的にも栄養的にも満足できる食事を提供することができた。
 
3) 固形化食盛り付けの工夫
 固形化食は、食事として重要な要素である色、味、食感などが単調なものになりやすい。そこで、視覚的に少しでもおいしそうに見える工夫を試みた。図2に示す流し型や抜き型を用いて、魚を原料とした食事は魚の形に盛り付けるなどの、盛り付け上の工夫を行った。この見た目においしそうに見える盛り付けの工夫が、介助時の声掛けに役立っているという感想が、食事介助者から寄せられた。
 
5. 考 察
 本研究では、嚥下食について、喫食者の低栄養改善のためのみならず、「退院後に家族が作るときに参考になるような食事」を視野に入れて開発を行った。条件として、少量で栄養価が高く、誤嚥の危険の少ない食事形態(離水をしない、顆粒物がない)であることを旨とした。また、食欲を高める工夫や日常の食事をアレンジして家族と同じ食事を摂れることを目標にした。
 治療食として適切な栄養管理を行うために、栄養士は献立を再検討し、調理師は安定した同じ品質の食事を提供すること、ならびに調理技術の開発、向上に精力を傾けた。リハビリ担当は、嚥下状況の評価をもとに、個別対応の食事内容を栄養士や調理師に伝え、3者の立場から検討するという医療チームとしての道筋ができた。本研究を通じて、喫食率改善に向けた院内の協力体制を構築することができたことは、何よりも大きな成果であった。
 食事提供部門、特に調理担当部門の外部委託化・センター化が進み、栄養・調理部門が医療チームに参加できにくい状況が進んでいる。本研究を通じて、患者の低栄養の改善のためには、栄養管理部門と調理部門が連携して医療チームに参加することが重要であることが確認された。また、今回の固形化食開発の成果には、調理担当部門の「安定した同じ品質の食事を提供する」技術向上の努力があったことが大きかった。
 
6. 謝 辞
 本研究を行うにあたりご指導いただきました長野県短期大学教授志塚ふじ子先生に厚く御礼申し上げます。
 
<参考文献>
1) 「特集 栄養補助食品 その意義と活用法」、臨床栄養、97、151-155、2000
2) 「特集 嚥下障害チームアプローチと栄養ケアの実際」、臨床栄養、96、237-269、2000
3) 田中弥生、宗像伸子:「おいしい、やさしい介護食」、臨床栄養別冊、2004、医歯薬出版
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