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「食のバリアフリー」に挑戦、Webとアプリで家庭での食事療法をサポート

トップランナーたちの仕事の中身♯056

北村文乃さん(株式会社おいしい健康 DXマーケティングチームリーダー、管理栄養士)

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 「今、家にある食材で何かおいしい料理が作れないかな?」。そんなときに重宝するのがレシピ検索サイトです。料理のヒントを得るだけでなく、自分が作ったレシピを投稿したことがある方もたくさんいるでしょう。
 実はこうしたレシピ検索サイトの裏側でも、管理栄養士・栄養士が活躍しています。管理栄養士の北村文乃さんは、「株式会社おいしい健康」のWebサイトとスマートフォンアプリ(以下、アプリ)の構築段階から携わっています。
 「おいしい健康」は、多くの方に利用されているレシピ検索・投稿サイトの「クックパッド」から独立した会社で、「おいしい健康」のWebサイトやアプリでは、糖尿病や脂質異常症などの疾患、あるいは、便秘、風邪をひきやすい、血糖値が気になる、硬いものが食べにくい、副作用で味覚が変わってしまったといった身体の悩みをテーマ別でレシピを検索できる、症状や目的別の食事に特化したサイトのサービスを行っています。

 「私は以前、クックパッドに勤めていましたが、利用される方が糖尿病や高血圧などの疾患をキーワードにしてレシピを検索し、ご自身の食事療法の参考にしていることをうかがい知ることができたこと、また一方で、ご自宅で食事療法をされている方が糖尿病や高血圧などのキーワードでご自分が作ったレシピを投稿される場合、栄養学的な裏付けがないため、私たち管理栄養士・栄養士でその疾患に対応した材料や分量に調整して掲載するという作業を行っていた背景から、「おいしい健康」では、これらのニーズに対応する業務を独立させて、エビデンスに基づいたレシピや献立を掲載しています」
 北村さんをはじめ管理栄養士は約10名在籍し、みんなが日々、大切にしている言葉は「食のバリアフリー」。疾患を抱えていてもおいしく料理を食べ続けられる環境が平等にあるようにと願って、Webサイトとアプリの充実を図っています。利用者が無料でレシピ検索できるサービスに加えて、メンバーシップ登録(有料)をすると60以上の疾患や症状・目的別に合わせて、管理栄養士からレシピや献立の提案が受けられるようになっています。北村さんたちは利用者のさまざまなニーズに応えようと、さらに疾患や症状・目的別の種類を100に増やす予定です。

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負担や不安を軽減するレシピの提案

 現在、Webサイトとアプリでのリリースに向けて取り組んでいる疾患の一つがリウマチです。「リウマチは、男性に比べて女性がかかりやすい疾患です。そのため、病気になってもご自身で家事をし続けなければならないという方が大勢いて、手の指が曲がってしまって調理がしにくかったり、膝の関節痛で立ったままでの調理作業がしんどかったりという苦労があります。このような方たちには、負担を軽減した調理可能なレシピを考案し、提案できるように準備しています」 このように、北村さんたちが考える食事療法は、疾患に合わせてエネルギーや栄養素を調整したレシピを用意するだけにとどまらず、料理を食卓に出すまでの動きにハンディキャップがあっても料理が作れるようにと、バリアフリーに挑んでいます。
 疾患を理解するために、北村さんは「日本人の食事摂取基準」と各疾患の診療ガイドラインなどのさまざまな資料を読み込みます。そして、その疾患を抱える方たちには実際にどんな困り事があるのか、どのような作業が負担になっているのかをおいしい健康のユーザーへのアンケート調査や、直接訪問看護師に話を聞いたり、患者会に参加したり、時には医師の往診に同行させてもらい、リサーチをしています。
 「私たちの提供しているサービスは、みなさんの毎日の食生活の中で活用していただかなくては意味がありません。そのため各家庭のキッチンや食卓のリサーチをすることや、想像力も欠かせません」北村さんたちは、疾患を理解し、そして疾患を抱える方たちやその家族をイメージしてレシピ作りに取り掛かります。

 レシピや献立の提案は、管理栄養士・栄養士をめざす方、あるいは料理家になりたい方にとって憧れの仕事に挙げられますが、大きく分けると、食材や調味料を用意して料理を作ることと、その作り方の原稿を作成することに分けられます。
 北村さんたちは毎月50種類以上の新しいレシピを生み出し、料理は社内にあるキッチンで作ります。作った料理は、カメラマンに撮影してもらうこともあれば、自分たちで撮影することもあります。その際、季節感を感じてもらい、食欲が増すような、そしてよりおいしく見えるようにと、盛り付ける食器やランチョンマットなどにも気を遣います。このような自分のセンスを生かせるような仕事に魅力を感じている方も多いでしょう。しかし、北村さんは料理を作ったり撮影する以上に、レシピのテーマ設計や原稿を作成する作業にはるかに労力を費やすといいます。
 「クックパッドは料理を作る目的を持った方が利用するサイトですので、作り方を読んだだけでおおよそ作業をイメージできる方がほとんどです。一方で、「おいしい健康」を利用される方は、そういう方たちだけではありません。たとえば、ついさっき病院で糖尿病と診断され、途方に暮れている方が "糖尿病の食事" と検索して、私たちのサイトやアプリにたどり着くということがありえます。そんなときに、私たちが作成した料理の作り方を読んでも理解できず、食事療法を早々にあきらめてしまうことだけは避けなければなりません」

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周囲からのフィードバックこそ宝物

 料理を作りレシピ原稿を作成するという作業を、管理栄養士だけで完結させると利用者に利用してもらえないかもしれない。北村さんはその懸念を解決するために、時には一般社員に、作成したレシピ原稿をもとに料理を作ってもらうこともあります。それは思わぬところで、「一口大ってどんなふうに切るんですか?」などの質問が挙がってくることもあるからです。その体験は、料理のレシピは料理がわかる人の向けの、独特の用語で構成されているということを改めて気付かされました。
 また、「おいしい健康のWebサイトやアプリを利用していざ料理を作ろうと思ったときに、手が止まってしまう事態をなくす」ために、北村さんたちがしていることは、誰でも再現できる表現でレシピ原稿を作成することと並行して、システムエンジニアと連携をすることだといいます。たとえば、おいしい健康のレシピには、約400ものタグ(検索条件)を付けていて、栄養素を始め、季節やどんなシーンに向くのか、味の種類、またおいしさに関するあらゆる項目を1(該当あり)か0(該当なし)かで特徴付けていきます。
 こうしたデータベースの構築をシステムエンジニアと相談しながら開発したことで、ユーザーが検索した時のレシピの見え方、またAIが自分にあった献立を組んでくれるといったサービス(AI献立)に反映できています。さらに今後はデータ解析を積極的に行い、そこから得られた示唆を新しいサービス設計につなげたり、研究発表へも参加していきたいと考えています。

 北村さんは、病院で働いた経験もあり、栄養指導も担当していました。しかし今はWebサイトとアプリを通して、疾患や悩みを有する方たちと間接的にかかわっていますが、人びとの本音は現在のほうがハッキリと聞こえるといいます。それは、インターネットは匿名性があるため、利用者からの投稿で「塩分に気をつけると何を食べていいのかわからない」、「刺激物は控えましょうと言われているけどカレーが食べたい」、「○○の作り方がよくわからない、難しすぎる」というようにさまざまな書き込みがあります。 
 「こうした本音を投稿してもらえるからこそ、私たちの課題が明確になり、文章の表現を考え直したり、Webサイトの見やすさを改善したり、新たなコンテンツを作るヒントをいただいています」
 北村さんがかつて同僚に言われた言葉でハッとしたのは「Feedback is gift」。仕事をしていると、時に他職種やクライアントから言われた言葉が「批判」に聞こえてしまったりすることもあるでしょう。でも、周囲からの言葉は、自分がなかなか気づきにくく、むしろ成長させてくれる機会だと気付かされました。嬉しい言葉も時に厳しい言葉も次の一歩ととらえて、いつも前進する力に変えています。

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プロフィール:
東京文化短期大学家政科(現 新渡戸文化短期大学)卒業後、病院に就職。委託給食会社で医療機関や老人ホームでの給食管理業務、一般企業で事務職や営業職を経験する間、特定指導にも携わる。2012年より株式会社クックパッドで勤務、2017年より現職。管理栄養士。

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