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アスリートを支える知識と情報収集能力を生かしてオーダーメイドの栄養サポートに挑戦し続ける

トップランナーたちの仕事の中身#065

岡本 香さん(エームサービス株式会社 運営・品質管理本部 IDSセンターニュートリション室、管理栄養士)

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 2021年夏、日本国内でスポーツの大規模国際大会が開催されました。熱狂の舞台裏で選手の活躍を食の面からサポートすべく取り組んだ管理栄養士らがいます。その一人がエームサービス株式会社の岡本香さん。
 岡本さんは公認スポーツ栄養士として知識を最大限に生かしたオーダーメイドの栄養サポートで、選手の目標達成に貢献すべく取り組んでいます。

選手から情報を引き出し、最適なサポートを生み出す

 「スポーツ栄養」と一言でいっても、スポーツの種類や選手の生活状況、目標とすること等、さまざまな要素が複雑に絡み合うため、栄養サポートの方法は一人ひとり異なります。岡本さんは選手のことを深く知ることを大切にしています。ある選手に食事状況のヒアリングを行ったとき「3食しっかり食べていますよ」といわれたため、食事を自主的に管理できる選手だと判断しました。しかし、その後コーチから「実は、パンやおにぎりだけ食べていることが多いんですよ」と教えられたのです。選手のことが見えていないと痛感した瞬間でした。

 世界を舞台に競技を行うトップアスリートであっても、食事や栄養に興味がない選手は少なくありません。それは、岡本さんにとって意外な事実でした。大学時代にも学内のスポーツ栄養研究会に参加し、部活動を行っている学生に対する栄養指導・介入を行った経験はありましたが、サポート対象となっていたのは同じ大学の学生だったため、栄養への関心はもともと高かったのだと気付きました。
 「日々の食事や栄養に関する理解度・関心を確認するのはもちろんですが、何に困っているのか、どんなことを目指したいのかといったことを、幅広い視野で細かく聞きとって、雑談や関係者からの情報も踏まえ、選手自身を知ることを心がけています」

 例えば、ある競技のサポートをしているとき、選手の朝食の摂取状況があまり良くないということがありました。運動負荷が高い選手にとって必要なエネルギーや栄養素をバランス良く摂るためには、朝食をもっとしっかり食べる必要があると感じましたが、選手の1日の行動を聞き取ってみると、練習場を他の競技と共有していることで、早朝の時間帯しか練習できないという事情があることが分かりました。そこで、朝食を変えるのではなく、練習後にも食べられる補食や、昼食・夕食での工夫を提案し、1日の中で栄養バランスが整うように促しました。
 また別の選手は、以前は寮生活だったために寮で出される食事によって自然と栄養バランスのよい食生活を送れていましたが、一人暮らしをはじめたことで、主食に偏った食事になってしまいました。そのようなとき、理想的な食生活を理論だけ伝えても食事内容の変化にはつながらないため、まずは、朝ご飯に納豆を添えること、乳製品を一緒に摂取することを伝え、それをきっかけに選手の生活のなかでできることから主食・主菜・副菜の考え方を取り入れていくよう促しました。

 「対象者に合わせて寄り添える管理栄養士になりたい」と語る岡本さんに、今行っていることがすでに「対象者への寄り添い」なのではないかと聞くと、岡本さんはこう答えました。
「今はまだまだだと感じています。先入観を持って選手と関わって失敗することもありますし、過去の成功体験を別の選手にも当てはめようとして、うまくいかないこともあります。選手一人ひとりとしっかりとした関係性をつくって、本当にその人に合ったサポートができるようになりたいのです」

熱い思いと興味がチャンスを掴む

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 岡本さんが栄養に興味を持ったのは、高校生の頃。以前から取り組んでいた水泳競技の中で、好成績を残すにはどうしたらよいか考えた結果、食事の重要性に気付いたことがきっかけでした。より深くスポーツと栄養の関わりを知りたいと思い、管理栄養士を志して大学に進学しました。大学での講義や課外活動を通じて学びを深め、就職先を選択する際もスポーツ栄養を実践する場を求め、アスリートの栄養管理の受託実績があるエームサービス株式会社を選びました。
 就職してすぐは、同社が受託する社員食堂の給食管理業務に従事しながら、別の事業所の野球部へのセミナーに自主的に関わったり、独学で専門書を読み込んだりすることで、自分なりにスポーツ栄養に取り組んできた岡本さん。
 4年目の2013年の秋、ついにチャンスが巡ってきました。早稲田大学スポーツ栄養研究所との共同研究事業に招聘研究員として参加する社員の社内公募が実施されたのです。
 「これだ!」と思った岡本さんは、迷わず応募。これまでの経験や熱意を込めてプレゼンテーションし招聘研究員に選ばれ、スポーツ栄養の世界にさらに深く関わることができるようになりました。

 「『幸運の女神には前髪しかない』とは早稲田大学大学院時代の恩師に教えてもらった言葉ですが、今でも教訓にしています。興味のあることには恐れず挑戦し、のめり込むタイプなんです。反対に興味のないことには全然手が動かないんですけどね」そういって笑う岡本さんだが、会社にとって大学との共同研究が初の試みだったこともあり、招聘研究員として大学の部活動の選手やトップアスリートと関わる中で、たくさんの壁を感じたそうです。
 「選手やコーチ、関係者の話す専門用語や略語が理解できませんでした。さまざまな競技に関わりましたが、競技のルールや特性自体を知らなければ、会話が成り立ちません。また、運動生理学や解剖学等、スポーツに関わる分野の基礎知識が足りていないことも気付かされました。それ以外にも、英語で論文を読みこなす力や統計に関する理解も、もっとなければならないと思いました」
 その後、自分に不足している知識や能力を補い、さらに学びを深めるため、働きながら大学院に進学することを決意。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程に進学しました。研究員や大学院生として、さまざまなスポーツや選手に関わることができたこと、学会発表や論文・書籍の執筆に挑戦したことは、岡本さんにとって、とても貴重な経験だったと振り返ります。

一つひとつの事例を積み重ね発信する

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 2021年、日本国内で開催された大規模国際大会における選手への食事提供を同社が受託したことは、岡本さんにとって大きな出来事でした。担当したのは食事提供の場での「栄養ヘルプデスク」。提供している食事について、各国の選手から質問があった場合に対応を行うものです。
 選手からの質問内容は、提供コーナーの案内から、テイクアウトの要望、宗教食の対応、アレルギーや細かな栄養素の数値、含有の有無の確認まで多岐に渡りました。ここでも「一人ひとりの要望を細やかにヒアリングすることの重要性を改めて感じました」と岡本さんはいいます。言葉も文化も異なる選手の要望や相談では、臨機応変に対応しないといけないことが多々ありましたが、持ち前の情報収集能力と果敢に挑戦する姿勢で乗り切ることができました。
 スポーツ栄養の分野は海外研究が先行している状態です。岡本さんはこれからの課題として、自身の実践報告をまとめること、学会発表や論文発表によって広く発信していくことを挙げています。
 「関わる選手一人ひとりは異なるのですが、その多様性に対して私が取り組んだことを発信することで、これから取り組もうとしている人の助けになったり、他の人へ良い影響を与えることにつながったりすると考えています」
 岡本さんが取り組む、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの栄養サポートは、次世代の育成にもつながっていきます。

プロフィール:
2010年東京家政大学家政学部栄養学科卒業。同年、エームサービス株式会社入社、事業所給食業務に従事。2016年早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程に進学し、2018年修了。同年より現所属となり、アスリートへの栄養サポートや宇宙飛行士の健康管理業務、レシピ開発、社内栄養士教育等に従事。2017年公認スポーツ栄養士取得、管理栄養士。

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