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なんとなく「もったいない」は、もう卒業。私たちがロス削減のために担うべき役割

シリーズ「SDGsと栄養」-第1回 今知りたい、食品ロスのこと-

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 「SDGs」とその達成のためのさまざまな取り組みが注目を集めています。そのひとつが、食べ残し、売れ残り、期限が近いといった理由で、まだ食べられる食品が大量に捨てられる「食品ロス」の問題です。今回はその現状と対策について知り、管理栄養士・栄養士としてできることについて考えてみましょう。

知っておきたい! 食品ロスの現状とそれによって生じる問題とは?

 日本の食料自給率は先進国の中でも低く、多くの食べ物を海外からの輸入に頼っています。
 農林水産省が公表した「令和2年度食料自給率・食料自給力指標」(2021年8月25日)によると、カロリーベースで37%、生産額ベースで67%。また2015年から新たな指標として導入された食料国産率(飼料自給率を反映しない)に関しては、カロリーベースで46%、生産額ベースで71%でした。
 このように大量の食料を海外から輸入する一方で、多くの「食品ロス」(=まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物)を生み出しているのが今の日本の現状です。その量は、家庭系と飲食店や加工工場などから出る事務系をあわせて、年間600t(2018年度)。つまり国民1人当たり、1日約130g=茶碗約1杯分の食品ロスが生まれていることになります。
 これは「食べ物を捨ててしまってもったいない...」ということはもちろん、それ以上にさまざまな問題を招いています。具体的には、食品廃棄物を運搬、焼却することで発生するCO2が地球温暖化の要因となる温室効果の助長、また処分のためにかかるコストやエネルギーの消費などです。結果として、食品ロスは環境負荷の増大や資源の無駄使いなどの原因になっているのです。
 今回はこの食品ロス問題について、食品廃棄問題とそのリサイクルに関して研究する、龍谷大学農学部食料農業システム学科教授の淡路和則氏と、同学部食品栄養学科の中村富予氏にお話を伺いました。

日本人の良さが裏目に!? 「おもてなしの心」が食品ロスを助長

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淡路氏:SDGsが話題になり、食品ロスについて取り上げられる機会も増えました。「食べられるものが大量に捨てられている」ということに問題意識を持つ人は増えたと思います。でも、食品ロスは食べ残さない、捨てないだけでは解決できない現代の食のあり方に関わる大きな問題であると言えます。

中村氏:管理栄養士・栄養士は特に「食」と密接に関わる仕事です。そのために、すでに現場で働いている人はもちろんですが、これから目指す学生にも正しい知識を身につけてほしいと思います。淡路先生は、食品ロスによって生じる事柄で何が一番問題だと考えていらっしゃいますか?

淡路氏:今の農業は、以前に比べてエネルギー消費型になっています。例えば同じお米を作ることでも、以前はお米から摂取できるエネルギーよりも少ないエネルギーで作ることができました。それが今は機械化や資材の化学製品化が進んで大量のエネルギーを必要とするようになり、お米からの摂取エネルギーの何倍ものエネルギーが生産に使われています。

中村氏:それが捨てられてしまうと、処理のためにまた多くのエネルギーが必要ですね。

淡路氏:そうです。作るのにたくさんのエネルギーをかけ、それが食べることなく捨てられてしまえば、焼却するエネルギーがさらにかかります。食品ロスのために失われる、限りある資源とエネルギー。これが一番の問題点であると思っています。

中村氏:食品ロスが生じてしまう原因、そしてなかなか減らない背景にはどのようなことがあるのでしょうか?

淡路氏:もちろん食べ残しをしない、食品を捨てないことは重要です。しかし同じくらい重要なのが、私たちの手元に食品が届くまでにどれだけのロスが発生しているかを知ること。例えばコンビニで売られているサンドイッチ。開いて中を見ると分かりますが、本当に食材のいい部分しか使われていないのです。さらにサンドイッチにはパンの耳が付いていないですよね。使われていない部分がいかに多いかということです。

中村氏:スーパーなどで売られている野菜などもそうですよね。キャベツやレタスなどは外側の葉が除かれていて、にんじんやきゅうりもまっすぐで形がきれいなものが多いです。

淡路氏:そもそも生産されてからお店に並ぶまでに、すでに多くのロスが発生しています。買ってきた食材や食材をきれいに使い切った、食べ切ったから、自分は食品ロスを出していないと思いがちですが、目の前のことだけを見ていても問題全体を捉えることはできません。食品が自分の手元に届くまでにどれだけのロスが出ているのか、まずはそれを知ること。それが食品ロス削減につながる第一歩になるのです。

中村氏:買った食材はきちんと使い切る努力をしますが、お店に並ぶまでのことまではなかなか気が回りませんね。

淡路氏:おっしゃる通りで、実験したこともありますが、自分で調理する場合のロスというのは本当に少ないのです。ところが商品としてサンドイッチや野菜を買う場合は、見栄えのいいものを選びたい。だから販売する企業側もそこを非常に気にする訳です。自宅での調理が減り、外部に食を依存するようになると、食品ロスが増大することになります。「おもてなしの心」、「お客様は神様です」といった日本人特有の精神が、食品ロスに限っては完全に裏目に出てしまっているのです。

中村氏:確かにアルバイトをしている学生から、ホテルのバイキングでは常に料理をきれいに並べていなければならず、毎日のように営業終わりには大量の料理を捨てなければいけないといった話を聞きます。

淡路氏:ヨーロッパなどに行くと、商品が売切れれば「ないものはない」と悪びれることもなく、店じまいしてしまうこともありますよね。でも、日本では閉店直前でもお客様のためにたくさんの商品を並べている。注文には必ず応える。品揃えの悪さや品不足、欠品は商売上ご法度なのです。でも、それを防ぐために発生するロスが大きく、そうした現状を見直すべき時が来ているのだと思います。

中村氏:それは、管理栄養士・栄養士の仕事の中でも心当たりがありますね。病院や学校の給食の食材はどうしても数日前に発注しなければいけません。いろいろなことを予想しながら発注するのですが、足りなくなることがどうしても不安で余裕をみて発注することが多くなります。実はその予備食が食べ残しの1.5倍くらいのロスを生んでいるといったデータもあり、大きな課題だと思っています。

淡路氏:それに加えて日本は焼却場の料金が安いというのも、ロスを減らそうという取り組みがなかなか加速しない一因となっています。

課題は仕組み作り。その中での管理栄養士・栄養士が担うべき役割は?

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中村氏:食品ロス削減のためには、そのためのシステムを作っていくことが大切だと思います。例えばある病院では、加熱調理後に食品を急速冷却して冷蔵保存し、提供直前に温食は再加熱する方法である「ニュークックチルシステム」を導入しているそうです。食材を少なめに発注し、不足分はストックを使うことで、予備食による過剰発注を防いでいるというお話を伺いました。

淡路氏:そういう予備食の過剰発注を除去する仕組み作りは大事ですよね。

中村氏:「もったいない」という精神論だけでは、食品ロスはなかなか減らすことはできません。きちんと、どこでロスが発生していて、その原因は何で、それを減らすためにはどう改善していく必要があるのかを分析することは必要です。必要な食材の量の予想も人の感覚でするのではなくて、AI技術などを活用し、在庫管理・発注自動化サービスなどこれまでのデータをもとに精度高く算出できたりするとよいですね。そうやって無駄な発注をしない運営システムを作っていくことが必要だと思います。

淡路氏:そのような仕組み作りには、外食チェーン店のノウハウなども生かせそうですよね。冷凍や解凍の技術も日々進化していますし、お互いに培ってきた経験やノウハウを共有していくことは、食品ロス問題に取り組む上で、必要なことだと思います。あとは「食のプロ」として管理栄養士や栄養士の皆さんには、食材を丸ごと食べる調理法など食品ロスを出さない食べ方の工夫などの情報発信を積極的にお願いしたいですね。

中村氏:食品ロス問題に積極的に取り組む施設は全国にたくさんあり、管理栄養士・栄養士が給食の食べ残しを減らす工夫をしたり、食品ロスを減らすレシピ集などを公開したりしています。

淡路氏:家庭でも簡単にできる工夫はありますか?

中村氏:野菜は皮まで丸ごと食べる方が栄養も食物繊維もしっかり摂れますから、食品ロスの観点だけでなく栄養面でもおすすめです。またどうしても出てしまう皮はきんぴらなどしにして丸ごと食べてしまうのがおすすめです。薄味で炒めるだけで、立派な副菜が完成します! ただ、こうやって工夫しても食品ロスをゼロにするのはなかなか難しいことですよね。出てしまった食品廃棄物のリサイクルに関しては、どのような取り組みがされているのでしょうか?

淡路氏:農畜産物や水産物は、人間が食べるのが第一です。だから可能な限りフードバンク(主に企業や農家から食品を寄贈してもらい必要な人に届ける活動や団体)やフードドライブ(主に家庭で余っている食べ物を持ち寄り福祉団体やフードバンクに寄付すること)などを利用して余ってしまった食べ物を必要としている人に提供するようにする。人間が消費できなかった部分は、家畜に食べてもらう。それでも残ってしまったものは、肥料にする。こういう順番で考えるのが、新たなエネルギーの投入を減らしながら食資源を有効に活用できる方法です。

中村氏:なるほど。こうした食品リサイクルを推進したいですね。

淡路氏:国も積極的に食品リサイクルに取り組んでいます。そんな中、注目されているのが「リサイクルループ」という考え方です。例えば、スーパーやレストランから出た食品廃棄物を集めて飼料や肥料を製造し、それを農家さんに使ってもらう。できた野菜や畜産物が、もとのスーパーやレストランに食材として提供される。つまり、排出した食品廃棄物が食材になって戻ってくるというものです。

中村氏:なるほど、それはおもしろい取り組みですね。

淡路氏:そうすることで排出者の責任が明確になりますし、いい肉ができて自分たちのところに返ってくると思うと、ゴミの分別もそれまで以上にしっかり行われます。こうやってグルグルとよい循環を作り出すのです。この「リサイクルループ」の環は、人の輪。先ほど、日本人特有の気質がロスを増大させていると言いましたが、このリサイクルの環は和を尊ぶ日本人の精神に根ざしたものです。海外からも注目され、高い評価を得ています。

中村氏:こうやってリサイクルすることは、食料自給率の向上にも繋がりますね。

淡路氏:そうです。特に飼料化は、飼料自給率がとても低いわが国においては、食料自給率を上げる有効な手段となります。

中村氏:給食でも「地産地消」を積極的に取り組んでいますので、それを生かした地域のリサイクルループを作るというのもできそうですね。その中に、地元の学校や病院、福祉施設などで働く管理栄養士・栄養士も加わって、食品ロス削減と同時に地域の活性化のお手伝いができるとうれしいですね。地元の顔の見える範囲で取り組むことで、フードマイレージも減らすことができますね。

淡路氏:はい、ぜひ管理栄養士・栄養士の皆さんにはその輪に加わっていただきたいです。そして、子供たちにも自分たちの食べ残したものはその後どうなるのかを知ってもらうなど、教育にも力を貸していただきたいと思います。

中村氏:そうですね。今後は管理栄養士・栄養士がそういった教育の一端を担える存在になっていけたらいいなと思います。そのための仕組み作りや人材育成が急務ですね。

プロフィール:

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淡路和則(龍谷大学農学部食料農業システム学科教授)
食料の廃棄の実態と原因について、実際に現場に足を運んで調査・分析すると共に、食品残さを飼料化する仕組み作りなどを研究。
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中村富予(龍谷大学農学部食品栄養学科教授)
管理栄養士として病院、保健所勤務を経て現職。管理栄養士養成課程で学生の指導にあたっている。

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