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「ジャパン・ニュートリション」が世界を救う!? 中村会長が語る、「今なぜ、"栄養"がキーワードなのか?」

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 2030年に向けて国連で策定された「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」においては、食に関する諸問題はもちろん、保健、医療、福祉の領域のみならず、教育、労働、ジェンダー、農業、さらには環境まで、多様な形で"栄養"が関与し、ほぼすべての領域の下支えすることが期待されています。また、新型コロナウイルス感染症の脅威に世界が晒される現在、その発症と重症化に低栄養や肥満、生活習慣病等の因子が関わることがわかってきています。一方、2021年には、1年延期となった「東京栄養サミット2021」の開催が予定されるなど、世界中が栄養の持つ力に注目しています。
 そこで今回は、今こそ発信すべき"栄養のチカラ"について、「ジャパン・ニュートリション」とは何か、そのなかで、管理栄養士・栄養士の現場にはどのようなことが期待されているのか、中村丁次会長に語っていただきました。

-世界で栄養の話題を耳にする機会が増えました。栄養における、日本の強みは何でしょうか?

 日本が世界の中で長寿国になったことによって、国内外の人が「日本人の食事にその秘訣があるのではないか」と考えるようになりました。では、日本人の食事の何が素晴らしいのかという話になると、「納豆や豆腐が良い」、「梅干しが良い」、「発酵食品が良い」といった食品単体に着目されることが多々あります。しかし、これらは「日本人の食事」の本質ではないと私は考えています。また、「日本の伝統的な食事が健康に良い」という話でもありません。伝統的な食事が本当に良いのであれば、伝統的な食事が誕生した室町時代の頃から、日本人の寿命は長かったはずです。しかし、実際にはそうではありません。長寿国となったのは戦後以降、約40年ほど前のことです 。長寿国になったのは戦後の栄養改善運動の成果なのです。何万人という栄養士の先輩たちが、汗水垂らして地道に栄養改善を全国で展開したことが、今日の長寿へつながっているのです。
 栄養学は生活の中で実践することに意味があります。日本はその実践に成功し、低栄養を解決し、肥満の拡大を防いだという点で世界に稀な国と言えます。ではなぜそのような効果を得ることができたのでしょうか。1つは栄養士が職業人として活躍できる社会に整えたことです。ボランティア活動として栄養改善に取り組んでいる国は世界にも多くありますが、栄養改善を職業とする専門職を社会構造のなかに組み込めている国はそう多くありません。また、活動が全国で展開できるほど大勢の栄養士がいたこともあります。さらに病院、学校、福祉等への配置義務を制度化し、その仕事に技術料が発生するようにしたことが挙げられます。このように、日本の栄養改善が成功したのは、ただ単に高度経済成長によって、食生活が豊かになったということではなく、先人の不断の努力によって社会に栄養の実践を管理栄養士・栄養士の専門的業務として組み込んでいったからです。私はこれら一連の取り組みと成果を「ジャパン・ニュートリション」という言葉に込めて、世界に発信したいと思っています。

栄養指導の秘訣は「感動」にあり!
心を動かし、感じられる知性を持つことが大事

-これから栄養改善を実践していく方々にとっても、過去を知ることはとても重要ですね。

 ただ、これらの話を単純に「歴史の事実」として記してもつまらないので、「物語」としての面白さを盛り込みました。「面白い」は「面が白い」と書きますが、これは暗闇のなかで明かりが灯ると、前にいる人の顔が白く見えてくるということを示しています。つまり「面白い」というのは、最初は分からなかったことが分かるようになり、興味を持ってもっと知りたいと思えるようになることを言っています。だから面白いという感情を持ってもらうことはとても大切だと思っています。
 これは栄養指導においても同じです。私はこれまで多くの方に対して栄養指導を行い、多くの講演を行ってきました。私が栄養指導を始めた頃は、栄養の大切さを伝える方法論は十分に研究されていませんでした。伝えたいことはたくさんあるのに、伝わっている感じがしない。講演会にも人が集まらない。どのようにしたらいいのかとても悩みました。そんなときふと趣味の観劇のことを思い出して、多くの観客がいるミュージカルは何が違うのかなと考えてみました。特にブロードウェイで公演されているようなものだと、3時間の公演のうち後半の数分間に、細胞が震えるくらい感激する瞬間があるのです。人々はその感動を味わいたくて、ミュージカルを何度も観に行くのです。
 これを自分の身に置き換えて「はたして自分の行っている栄養指導や講演に人々は感動するのだろうか」と思いました。30分の指導、1時間の講演のために、忙しい中わざわざ来てくれている人に何を伝えたら良いのか。栄養指導において科学的エビデンスに基づいて間違いなく正しい知識を伝えるのは基本だと思いますが、それだけだと興味を持ってもらえないです。話を聞けて良かった、面白かったと思える瞬間が必要だと思います。だから栄養指導も講演も、興味を持ち、面白いと感じてもらえるようにして、「あの管理栄養士さんに会いに行ったら、また何か面白い話が聞けるんじゃないかな」と、期待してもらえる人であることが重要なのではないでしょうか。
 よくAIやロボットの話になると「私たちには心があります」、「温かい心を持っていればAIには負けません」という人がいます。しかし、実際には心はどこにも実存しません。心とは人間が感じるものなのです。だから、どのようなときに人の心が動くのかを知る必要があります。栄養学に関する専門的な知識を伸ばしていくということもとても大事なことなのですが、自然や社会さらに文化等の事象に触れて、人間性を涵養して、感性を伸ばすということもとても重要だと思います。正しいことを情報として伝えるだけの栄養指導は、有限な知識を切り売りするだけで、いつか終わりがきます。また、面白くない話は何度も聞きたいと思いません。魅力ある人には何度も会いたくなるので、まず人間的魅力を感じてもらうことも必要です。

-「面白さ」は心を掴むためにとても大切ですね。

 若い人に音楽と文学どちらが好きですかと質問したら、圧倒的に音楽が好きだと答えます。よく文学離れや文字離れと言われますが、これは「文学」という文字のせいだと思っています。「音楽」は「音を楽しむ」と書きますが、「文学」は「文字を学ぶ」ことにしたのです。同じ「ガク」でも、楽しめるものと学ぶものだと、人は圧倒的に楽しめる方を選びます。「文学」の「ガク」も「楽」だったら文字離れは起こらなかったかもしれません。文字を楽しむからです。 同じように「栄養学」を楽しむという視点が必要だと思うのです。専門職としてこれから「栄養学」と一生付き合っていくのだから、学ぶことを苦痛に感じているのはもったいないです。身近な疑問を論理的に深めていくことや、新しいことを知ることに楽しみを見いだせるようになったら、きっと人生が豊かになると思います。

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これからの管理栄養士・栄養士に伝えたい物語

-今現場で活躍されている方やこれから管理栄養士・栄養士になろうとする方にも、「栄養」を楽しんで実践していただきたいですね。

 私自身は管理栄養士としてとても幸せな人生を送らせてもらうことができていると思います。良い指導者に出会うことができ、友だちにも恵まれ、さまざまな問題解決のために一緒に戦った仲間がいます。また、日本栄養士会の会長となり、国際的にも多くの人とかかわることができました。それらを振り返ったとき、「ひょっとしたら自分は管理栄養士として特異な人生を送っているのではないか」と感じました。それであれば、自分が経験したことを記録に残し、多くの人々が 意義のある人生を送ることができるようにすることが必要なのではないかと考えました。これから栄養を学び、実践する多くの人達の参考になり、活力になるように、この度臨床栄養学者 中村丁次が紐解くジャパン・ニュートリション(第一出版)を執筆しました。
 もちろんこの書籍では、ただ単に歴史を語ることはしていません。栄養学の楽しさを改めて感じてもらうために、自分の体験を踏まえながら、客観的に事実を整理し、科学的な検証もしつつ、これまでの日本の栄養を物語としてまとめ上げました。栄養の意義や価値、大切さを改めて実感することで、明日の活動の活力としてもらえることを願っています。

修行時代から小泉純一郎元総理とのエピソードまで
栄養の過去・現在・未来を、この一冊に見る

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『臨床栄養学者 中村丁次が紐解くジャパン・ニュートリション』
中村丁次 著 / 第一出版 刊

A5版 232ページ 2020年10月発行
2,500円(税別)

 本書では、諸先輩方が取り組んできた日本の栄養改善の軌跡「ジャパン・ニュートリション」が、中村会長の実体験を踏まえた物語として語られています。赤坂四川飯店での修行の話や、「医食同源」を提唱した新居裕久先生との出会い、師事された細谷憲政先生と共に取り組んだ栄養改革、日本での国際栄養士会議開催のために関わった小泉純一郎元総理とのエピソードなど、「あの出来事の裏にはそんなことがあったのか...」と、とても新鮮な驚きを持って歴史を振り返ることができます。そして先人が力強く進めてきた栄養改善運動を知ることで、栄養の力を改めて実感し、未来への希望を持つことができます。

 新型コロナウイルス感染症の拡大による時代の転換期、これからのSociety5.0時代を生き抜くために、管理栄養士・栄養士がどうあるべきかを考えるためのマイルストーンとなる1冊です。これから栄養学を学び実践していく若い方々、栄養学の教育にかかわる方々、現場で栄養学を実践している方々など、栄養にかかわるすべての人に、ぜひ読んでいただきたいと思います。

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