入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. 学生に、主婦に、子どもたちに...食の楽しさと、命の尊さを伝える管理栄養士

学生に、主婦に、子どもたちに...
食の楽しさと、命の尊さを伝える管理栄養士

トップランナーたちの仕事の中身#011

山崎亮子さん(管理栄養士)

20170401_01.jpg

 「教える」より、「伝える」というスタンス。食べるって楽しい、料理って楽しいということを。「食を楽しむ」ことを、食卓をとおして伝えたい。そこには必ず"笑顔"があるから――。
 富山県富山市在住の管理栄養士、山崎亮子さんの自宅で開催された料理教室は、この日も和気あいあいとしていました。子ども同士が幼稚園で一緒だったころからお付き合いがあるママさんや、口コミで広まってつながった主婦の方など、山崎さんの料理教室には長く通っている人が多いのです。

 料理教室を主宰するようになった始まりは、九州から富山に引っ越してきたばかりのアパートでの生活からでした。子どもたちを育てながら親しくなったママさんから、「仕事や子育てで忙しい毎日でも作れるような料理を教えてほしい」と依頼があったことがきっかけです。九州で生まれ育ち、大学では管理栄養士専攻に進学し、糖尿病専門病院で働いたのち、料理研究家のアシスタントを務めてきた山崎さん。病院勤務時代に「様々な人に、食の大切さを伝えていきたい」と願っていたことが、期せずしてスタートしました。

20170401_02.jpg

 「糖尿病専門病院時代に、管理栄養士が患者さん向けに作ったレシピ本のタイトルも『食を楽しむ』でした。一生、食をあきらめることなく、食を楽しんで、人生を送ってほしい。その思いは病院に所属していたときも今も変わりありませんね」
 自宅アパートのキッチンで料理教室を始め、2回の引っ越しを経て、現在はキッチンスタジオのように広くてすっきりとしたダイニングが山崎さんの料理教室です。取材に訪れたこの日は8人の生徒さんが集まり、2月の冬の時期に知っておきたい「麹と酒粕の使い方」、「富山の郷土料理」、生徒さんからリクエストがあった「コンフィ」の3つをテーマに、冬の富山の食材を使用し10品ほどを皆で仕上げていきました。

 「管理栄養士として、皆さんの生活の中で取り入れやすいように、栄養素が体内でもたらす効果についてわかりやすくお伝えしています。今すぐ自分のものにしたいと思っていただけるよう、季節感をプラスしたり、リクエストされた料理も教えています。そして、料理教室では必ず"驚き"を盛り込むようにしているんですよ」
 この日は、酒粕漬けの鮭をグリルではなく七輪で焼いたり、せいろで特大の酒まんじゅうを蒸しあげたり、富山の伝統料理「昆布締め」に普段では使わないかまぼこを入れてみたり......。「へぇー!」、「わぁー!」、そんな声があちらこちらから聞こえます。この"驚き"は、料理教室に高揚感が出るとともに、「食は、楽しい!」と生徒さんに印象づけることができ、この楽しさをそれぞれの日常生活に取り入れてもらいたいという山崎さんの狙いです。

 料理教室の翌日からは、生徒さんから麹や酒粕を使った料理の写真や、料理教室で教わったものを1品ずつ作っていますという声が山崎さんに届きます。
 「こういう反応が来ると、伝えたかったことが伝わっていると分かり、うれしい気持ちでいっぱいになりますね。料理教室は、管理栄養士の自分が考えていることを確実に、丁寧に伝えていくのに有効な方法だと考えています」

幼児教育学科の学生に
食と命の近くに立たせる

 山崎さんの"伝える場"は料理教室だけではありません。専門学校と短期大学(通信課程)の講師として、幼児教育学科の学生たちを前に教壇にも立っています。教室での授業にとどまらず、学生たちを食の現場に立たせることも、山崎さんは自身の使命と考えています。

20170401_03.jpg

 富山市の中心部から離れた里山にある土遊野(どゆうの)の農場へ、バスで学生たちを連れていきます。生まれたてのヒヨコを学生に抱かせて、「かわいい~!」と感じさせながらも、成長して鶏になり卵を産み、ゆくゆくは肉として命を頂く存在であること。1日稲刈り体験をさせて、その籾(もみ)からたい肥を作り、ほかの野菜の栄養となっていくこと。土の中のミミズや幼虫を毛嫌いする学生には、その存在によって畑の土が耕され肥やされていること。人間もこうした生態系の中で生きているということ――。

 「循環型農業の現場を訪れることで、将来、保育士や幼稚園教諭になって子どもにかかわる学生たちが、命を身近に感じられるようになります。彼らが自ら子どもたちに、命や、食や栄養、健康について自身の体験として語ってくれたらと思っています。学生にこうした機会を設けることは、今後もライフワークとして続けていきたいと思っています」
 土遊野の米、野菜、卵、肉をはじめ、富山県各地の農家とのつながりも多く、県内の生産者とその食材をこよなく愛する山崎さん。「私は人とのご縁にとても恵まれていると、いつも思うのです」と話します。

20170401_04.jpg

 「私が何のために仕事をしているかと言えば、食卓から生まれる幸せの先に、皆さんの生活が少しでも充実したものになれば、との思いからです。そして、そのつながりから、また別の人が私に声をかけてくれて、それに応える。富山に移住してから10年が経ちますが、この繰り返しで自分の仕事の幅が広がっています」

 料理教室講師、専門学校講師、料理家、フードスタイリストとさまざまな顔を持ち、人とのつながりが多い山崎さんのまわりには、自然と笑顔があふれています。母として、高校生の娘さんと中学生の息子さんに対しても「家族で食卓を囲む時間だけは怒らない」と決めているのだそうです。悲しい気持ちやつらい気持ちでは食事がおいしくなくなってしまい、食を楽しめなくなるからです。

20170401_05.jpg

「皆で笑顔で食べることで、食事のおいしさは何倍にもなると思います。様々な家庭の食卓で笑顔があふれるために、私のさまざまな活動がお役に立てたらと願っています」

20170401_06.jpg

プロフィール:
平成3(1991)年、九州女子大学家政学部管理栄養士専攻卒業。産業医科大学病院にて管理栄養士初任者臨床研修を受ける。平成4(1992)年、(医)紘和会平和台病院に就職。平成9(1997)年、山際生活デザイン研究所にて料理研究家アシスタントに。平成15(2003)年、富山市に移住。平成18(2006)年より富山情報ビジネス専門学校(近畿大学通信課程兼務)非常勤講師として小児栄養の授業を担当。情報誌での連載や料理教室講師としても活動。

賛助会員からのお知らせ