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遺伝子組み換え実験から、災害現場まで
夢を目標に突き進む栄養学研究者

トップランナーたちの仕事の中身♯013

笠岡(坪山)宜代さん(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 栄養疫学・食育研究部 食事摂取基準研究室 室長 管理栄養士 医学博士)

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 栄養の研究は、管理栄養士が率先して担うべき――。笠岡(坪山)宜代さんは、「管理栄養士による研究だからこそ、明らかにした研究結果をすぐに栄養・食事の現場に応用できます。研究者を目指す管理栄養士がもっと増えて、栄養に関するエビデンスを数多く発表してほしい。さらに、そのエビデンスを活かして仕事をする管理栄養士・栄養士が増えてほしい」と願っています。

 笠岡さん自身は、さまざまな病気の引き金となる"肥満"を解決したくて、研究者の道に進みました。大学2年生で訪れたアメリカで、ポテトチップスにチキンというホームステイ先の夕食を目の当たりにして、「日本食の良さを"栄養素"のレベルから広く発信しなければ!」と痛感したのが、研究者を選んだスタート地点。日本食の中でも、魚を多く食べる食生活を広めたいと思い、魚介類に含まれる栄養素に着目しました。

 大学院生の頃には、EPA、DHAといった魚油、タウリンの研究をスタートさせており、平成18(2006)年にはタウリンが肥満に効果があるというメカニズムを笠岡さんが世界で初めて明らかにしました。世界トップの科学誌Scienceに話題のニュースとして掲載され、国内では論文「魚介類含有成分における肥満抑制に関する研究:魚油およびタウリンの作用」が平成19(2007)年の日本栄養改善学会奨励賞を受賞しています。

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 「私が見つけたのは、タウリンは心臓や肝臓に限らず脂肪組織にも存在し、ヒトの体内で熱を産生するということ。脂肪から分泌されるホルモンの一種のレプチンと同じような働きがあること。また、太ることにより脂肪細胞が肥大するとタウリンの機能が落ちて肥満が加速してしまう――というサイクルを見つけ、タウリンが肥満に効果があるということを明らかにしました」

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 研究は、仮説から始まりますが、その仮説を証明できなかったときに苦しさがあると言います。笠岡さんは一連の研究のなかで、体のなかでタウリンを作る酵素の遺伝子を発見しており、そこで「体内でタウリンを多く作ることができれば、太らないのではないか」という仮説を立て、遺伝子工学を駆使してタウリンが豊富なマウスを作りました。が、そのマウスは予想に反して逆の結果に。。。
 「1つの遺伝子を無理に増やすと、ほかの経路が制御されてしまう。1つの遺伝子を抑制すれば、ほかの経路が促進されてしまう。体はうまく調整しているんですよね。ハーバード大学へ短期留学した時に、山の様な実験データが仮説を証明できず使われていない現実をみて、世界のトップレベルでも同じなんだと知りました。仮説が外れることによって、残念な気持ちもありますが、なんでかな?とさらに考えることができ、新しい発見も山のようにありますから、また次の研究へと進むことができるのです」
 笠岡さんの研究の道はこうして次々に拓かれていき、新たな発見は論文という形で公に発表することで、社会に還元していきます。

食料備蓄にはカセットコンロと
魚の缶詰も!

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 東日本大震災以降、笠岡さんのライフワークとなった災害時の栄養支援の研究。「災害大国ニッポンだからこそ、エビデンスを国内に、世界に向けて発信しなければ」と、この6年間ですでに30報近くの論文を発表し、この分野の研究においては世界の第一人者です。
 
一例として、避難所の膨大なデータを分析した結果、「ガスが使えなくて調理ができない避難所は食事の量が少なく、質も悪くなる」というエビデンスを発表しています。現在公表されている「緊急時に備えた 家庭用食料品備蓄ガイド(農水省)」にも、"これだけは備えましょう"として水、米、缶詰にカセットコンロが加えられています。
 さらに、この備蓄ガイドの缶詰のイラストには、"魚"と"カニ"のイラストが。。。
 「実は、避難生活が長引くと肥満が問題となってきます。災害発生直後の避難所では全国から送られてくる支援物資の中にお菓子が多くあり、大人も子どももお菓子を食べることが習慣化してしまうのも一因かもしれません。そこで、私がこれまで研究をしてきた肥満に効果のある栄養素を含む魚介類を災害発生時にも食べられるようにしたいと考えています。魚介類からは、たんぱく質を摂ることができますし、災害時に不足が心配されるn-3系必須脂肪酸を補うこともできるからです。将来的には、魚の缶詰を多くした日本災害食のパッケージを作りたいとも考えています」
 笠岡さんのこれらの研究は、日本災害食学会でも数々の賞を受賞しています。

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 長年のライフワークだった魚介類、肥満研究と、新たに始めた災害時の栄養支援。「研究テーマとしていたそれぞれの点と点が、被災地で肥満者が問題となっている現実が見えてきたことで、ようやくつながってきました」と話す笠岡さん。研究をした成果が、ダイレクトに人の健康、生きることに役立てられていく――。研究への情熱はますます盛り上がりを見せ、途切れることなどありません。この記事を読んだ人は、笠岡さんが発見したエビデンスに基づいて、さっそく「水、米、(魚介類の)缶詰、カセットコンロ」の備蓄を始め、そして親戚や知り合いにも勧めてみましょう!

エビデンスを活用して
管理栄養士・栄養士の地位向上を

 国立健康・栄養研究所で食事摂取基準研究室室長という立場から、笠岡さんは一般の方、管理栄養士・栄養士に講演する機会が多くあります。東日本大震災の発生前は、食事摂取基準に基づいた栄養摂取、食事の大切さを普及しようとしても、「日本には栄養の問題なんてもう存在しない」ととらえている人が多く、その重要性が伝わりづらかったそうです。しかし、最近の講演時では、冒頭に災害発生時の食事情と研究結果を紹介することによって、多くの人が真剣に耳を傾けるようになり、災害をきっかけに平常時の食事・栄養にも興味を持つようになっていると感じているそうです。

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「管理栄養士・栄養士の皆さんには、私たち研究者が作ったエビデンスを臨床現場や学校給食など、様々な現場でもっと活用していただきたいと思っています。バランスのよい食事をと曖昧な表現をするのではなく、このような研究結果があるのでお勧めしますというように。エビデンスが上手に活用されれば、管理栄養士・栄養士の地位も向上していきますし、栄養の分野が世の中にもっと認められていくと思うのです」
 ヒマラヤやマッキンリーを制覇する登山家だったお母様の影響で、子どものころから山登りをしてきた笠岡さん。学生時代からはスキューバダイビングも趣味となりました。どんなに特殊で過酷な環境でも食べる事が活力になることを肌で感じ、宇宙飛行士の食事も手掛けたい研究の1つです。時には山頂へ、宇宙へ、時には深海へ。趣味と同じく、研究はいつも果てしなく高く、深く突き進んでいきます。

参考ページ:
■国立健康・栄養研究所「災害時の健康・栄養について」
■厚生労働省「避難所における食事提供の計画・評価のために 当面の目標とする栄養の参照量」

■厚生労働省「避難所における食事提供の評価・計画のための栄養の参照量」
■農林水産省「緊急時に備えた 家庭用食料品備蓄ガイド」

■日本災害食学会「日本災害食認証」

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プロフィール:
東京家政大学 管理栄養士専攻卒業、高知医科大学大学院 博士課程修了。 平成11(1999)年より国立健康・栄養研究所の臨床栄養部研究員として分子栄養学を研究。その後ハーバード大学医学部, アメリカ国立衛生研究所(NIH)に研究留学する。平成23(2011)年2月より現職。元日本栄養士会研究運営部会会長、JDA-DAT運営委員エビデンスチームリーダー。日本栄養改善学会奨励賞等多数。

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