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患者さんに貢献するために
臨床で得たアイデアを給食管理に活かす開拓者

トップランナーたちの仕事の中身♯025

八幡陽子さん(金沢大学附属病院栄養管理部主任、管理栄養士)

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 病院の食事は「冷たい」、「まずい」。そんなイメージはもうはるか昔のことと言えるでしょう。温かい料理は温かく、冷たい料理は冷たくお出しして、おいしく食べていただくのは当たり前。そして何より、患者さんそれぞれの病気やそのときの状態に適した食事を考え、医師の指示のもと提供するのが病院管理栄養士・栄養士のもっとも大事な仕事です。

 糖尿病の患者さんにはエネルギーや糖質を制限する、高血圧症の患者さんには塩分を制限する――。そんなイメージがあるかもしれませんが、病院の管理栄養士・栄養士は食事の量や味つけを"制限"するだけではありません。金沢大学附属病院栄養管理部は治療に貢献する食事の種類が豊富に揃えられています。

 その中のひとつに、がんの治療による副作用やほかの理由によって食欲不振の状態の患者さんに向けた、「みかづき食」があります。これは2年前の平成28(2016年)年7月に始めたばかりの新しい食種で、次第に満月へと満ちてゆく縁起のよい"上弦の月"に回復への願いを込めて名付けられました。
 「みかづき食」の内容は、食事の見た目の圧迫感を少なくするよう食事量を通常の半分程度に調整し、さらに「さっぱり味」と「はっきり味」の2つセットのどちらかを患者さん自身が選べるのが特徴です。食欲不振であっても、濃い味のほうが食べやすい方もいれば、あっさりしたものを好む方もいるためです。はっきり味にはナポリタンやカレーうどん、たこ焼きなど、さっぱり味には細巻きずしや、卵雑炊、おにぎりなどの料理が揃います。

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 このみかづき食を金沢大学附属病院の食種に新たに追加する際、中心人物となったのが管理栄養士の八幡陽子さんです。八幡さんは金沢大学附属病院栄養管理部に勤続18年目(途中、産休育休経験あり)。栄養管理部で9名いる管理栄養士の中で主任を務めています。

 病院では1日3食を365日、欠かすことなく食事を提供し続けなければなりません。金沢大学附属病院はベッド数が838床もあるため、1回に出す食事の量は600食近くになります。エネルギーコントロール食や低コレステロール食、嚥下調整食をはじめ、すでに50種ほど食種があるなかで、新しい食種を追加するには管理栄養士に限らず調理師や、給食受託会社のスタッフの協力がなければ事が進みません。八幡さんは持ち前の発想力と明るい性格を強みとして、この新しい仕事を軌道に乗せました。

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 こうして新たに始めた取り組みが本当に治療に貢献しているのかを、管理栄養士は患者さんが食べている様子を見に病棟訪問(ミールラウンド)をしたり、患者さんの食事の摂取量からエネルギーや栄養素の補給量を調査し、治療に関するいろいろな指標と組み合わせてその結果をまとめ、学会発表をしたり、論文にまとめたりしています。この「みかづき食」についても、平成29(2017)年の日本病態栄養学会年次学術集会で「食欲不振対応食提供前後での食事摂取量の比較調査」と題して発表し、みかづき食の提供により、食欲不振者の主食・副食の摂取量が有意に増加し、エネルギー補給量が増加傾向を示したことをまとめました。

 「各管理栄養士はそれぞれテーマを持って、患者さんに貢献したいという思いを研究という枠組みで形にしていき、それを世の中に発表する。発表時に頂いた指摘をさらに発展させて、より患者さんに貢献できるようになる。その一連の流れが興味深く、私の仕事の励みになっています」

 同僚であり、同じく栄養管理部主任を務める古一素江さんは八幡さんについて、「とびぬけた発想力がある」と評価しています。その発想のひとつに、通常は水に溶かして飲用するある栄養補助食品を、サラダのドレッシングに用いるというもの。オリーブオイル、バルサミコ酢、しょうゆとともにこの栄養補助食品を混ぜ合わせて、酸味のある鮮やかなドレッシングに仕上げたのです。この栄養補助食品は手術後の傷口や褥瘡の治癒に有用性が報告され1日2包飲むことが推奨されているものの、八幡さんたちの研究で患者さんが1日に2包飲めていないことが明らかになりました。「1日2包飲む」から「1日2包食べる」に発想を切り替え、患者さんの治療に貢献したいという思いを形にしたエピソードです。

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 栄養管理室の事務所の脇にあるテストキッチンでは、八幡さんたち管理栄養士が「こうしたら、患者さんがもっとおいしく食べられるのでは?」というアイデアを出し合い、より治療に貢献できる"新たな料理"が生まれていきます。

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患者さんにも他職種にも後輩にも 「秘書検定1級」の心遣い

 今、八幡さんの目の前の大きな課題は、厨房機器の更新を機に朝食に「新調理システム」を導入することです。それに伴い病院食の全献立をいったん白紙にし、今年度一年かけて一から作り直すプロジェクトに取り掛かり始めました。 
 また厨房機器の更新は、単に機器を交換する作業ではありません。前述のとおり病院の食事は1日たりとも、1食たりとも休ませることができません。当日の夕食から翌日の朝食準備までの間に機器を更新し、朝食時には何事もなかったかのように稼働させなければなりません。八幡さんは調理師らと"万が一"がないように慎重にシミュレーションを重ね、安全に食事提供することを目指しています。

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 前向きで明るくほがらかで、患者さんとも医師や看護師などの他の職種ともコミュニケーションが上手く、勉強熱心な八幡さんに「管理栄養士の新しい業務」を担当する期待がかけられるのもうなずけます。話し方や振る舞い方が患者さんや他職種との信頼関係の構築に役立てばと、八幡さんは秘書検定1級の資格を取得しました。「秘書検定を通じて患者さんへの応対の幅が格段に広がりましたし、管理栄養士の後輩たちへの教育や他部署との仕事も円滑になりました」と話します。


 「ご飯、食べとる~?」。病室を訪問した八幡さんの笑顔と明るい声が、今日も患者さんに治療のための元気や勇気を与えています。

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プロフィール:
北陸学院短期大学食物栄養学科卒業後、県立新潟女子短期大学(現新潟県立大学)専攻科食物栄養専攻に編入。卒業後に管理栄養士資格を取得し、金沢大学附属病院の病院研修生を経て入職。3年目にNST立ち上げに従事する。平成23(2011)年より主任に。

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