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いつでも目の前の患者さんに視点を合わせる 管理栄養士の次なる貢献を見据えて

トップランナーたちの仕事の中身♯033

宮崎純一さん((福)恩賜財団済生会群馬県済生会前橋病院栄養科主任)

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 病院に入院するとなったら、誰しも不安が募るもの。手術を受けるとなったら、なおさらです。胃や大腸などの消化器のがん摘出のための手術となると、「食事がまたおいしく食べられるようになるのかどうか...」といった心配も増してきます。

 群馬県済生会前橋病院の管理栄養士、宮崎純一さんは、自身が担当している外科・腹腔鏡外科センターで、手術の2週間ほど前(入院前)と、退院してから1~2週間後に、それぞれ外来で栄養指導をするという新たな取り組みを始めています。  手術のために入院する前は、患者さんは検査や手術の説明などでたびたび病院を受診しているものの、不安を払拭するまで医師や看護師などに相談したり話し合ったりする時間的な余裕がないことが多々あります。

  宮崎さんは、入院前の受診日に管理栄養士の栄養指導を組み入れることで、がん手術を前にして不安感から食事量が減ってしまったり、自主的に何かを制限したりして栄養状態を落としてしまう患者さんの気持ちをまず受け止め、手術の前にはできるだけ栄養のとれる食事を提案して、手術前の栄養状態をより良くしておくことで手術による身体の侵襲(ダメージ)が少ない状態にできることを、患者さんとその家族に説明します。 「食事に気を付けてきたつもりなのに、がんになってしまってショック」という声を聞けば、「○○さんのお食事は間違ったことをしてきたわけではないのですよ」と支え、「手術までの食事ではここに気を付けて、おうちでしっかりと体力を付けてきてくださいね」と励まします。
 こうして、入院前に事前に顔を合わせて栄養指導を受けた患者さんは、入院してからも宮崎さんがたびたび病室を訪れてくれると、入院中の緊張感も徐々に和らいでいきます。

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 一方で、手術を無事に終えられた患者さんには、一安心と同時に新たな心配事が生まれてきます。病院で栄養科が用意してくれた手術後に対応した食事で、少しずつ食べられるようになってきても、「家でも同じように身体の負担が少ない食事を用意できるのかどうか」、「何を食べていいのか、何を食べたら良くないのか」、「いつになったら入院前と同じように心配なく食事ができるようになるのか...」。退院できることがうれしい反面で、患者さんによってさまざまな気がかりが浮かんでくるのです。

 宮崎さんは退院前の栄養指導で、患者さんに合わせて栄養指導媒体も作り変えています。同じ手術後の食事についてでも、内容を1枚にコンパクトにまとめたもの、文章量が多めで情報をしっかり説明したもの、イラストが多いものなど、入院前から入院中にできるだけ回数を重ねて接してきたからこそ分かる患者さんの性格や好みに合わせて、宮崎さんは説明の内容、レイアウトや文字の大きさ、色使いを変えてオーダーメードで作成しているのです。
 すい臓がん摘出の手術を受けて退院を控えた60代の女性は、退院前の栄養指導で、「自分では検査結果がよく分からないので、先生から順調ですよと言われても、本当はどうなのか心配なのです」と宮崎さんに不安を伝えました。宮崎さんは、電子カルテに記載されていた検査結果をプリントしたものを見せ、CRPやアルブミンの数値を指さしながら、「手術による炎症も治まってきているようですね。栄養状態も回復してきていますよ。私がお昼にうかがったときもお食事をしっかり召し上がっていらしたので、先生のおっしゃるとおり順調に回復されていると思いますよ」と笑顔で話しました。そして、「退院後のご自宅での食事の注意点を1枚にまとめてきました」と、事前にオーダーメードで作っておいた栄養指導媒体の説明を始めました。
 宮崎さんは、「手術前も、手術後も、栄養指導では食事の説明を始める前に、"先に安心をしてもらうこと"を大事にする」を心がけているのです。

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退院後1~2週間したときに患者さんは外来診察で病院にやってきます。宮崎さんはそのときにも栄養指導を組み入れました。退院して自宅に帰ったからこそ、「思ったよりもなかなかたくさん食べることができない」、「これはどのくらい食べたらいいんだろう?」、「できるだけちゃんと食べているつもりなのに体重が増えない...」と、疑問も心配事も増えてきます。
 宮崎さんは、「食事量を無理に増やして、炎症を起こしてしまっても良くないですからね。今は体重が増えていかなくても維持できているだけでも順調なのですよ」と安心感をもたせたり、家族や周囲から、「もっと食べないと元気にならないよ」と言われてしまう患者さんに対しては、「無理して食べなくても大丈夫ですよ」と伝えます。食事のことで無理をさせないようにする、ストレスを感じないようにすることも管理栄養士の役目だと、宮崎さんは考えています。
 「管理栄養士の栄養指導と言えば、栄養バランスよくしっかり食べましょうとか、○○を食べてはいけませんというようなイメージを持たれる方がほとんどですが、患者さんの状態に合わせて『食べてもいい、無理して食べなくても大丈夫』と言ってあげられるのも管理栄養士の仕事だと思います」

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 オーダーメードは、病院の食事でもできるかぎりの対応をしています。特徴的なのは、食事の量を通常の4分の1程度に抑えた「1/4食」。茶碗も食器もミニサイズを用意して、ご飯は50g程度、魚の切り身も1/4程度だけを盛り付けます。手術後や化学療法中などで通常量の食事を見るだけで「こんなに食べられない...」と落胆してしまう患者さんには効果があります。「え、こんな少しの量?」と驚きつつも完食することができるなど、物足りなさを引き出すことができるのです。「1/4食」から少しずつ全体量を増やしていくことで、患者さんに「全部食べられた」という自信が付き、回復を感じさせることができるからです。
 「少ない量で食事をお出しすることで、『次はご飯を増やしてみましょうか?』とプラスの提案ができる。患者さんにとっても管理栄養士にとっても前向きな気持ちを生み出せる利点があります」
 宮崎さんは「病院の中でこういう仕組みがあったらいいな」と思いつくことを、ためらわずに新たな仕事として挑戦しています。すべての病棟に食事を出している、つまり診療科をまたいで仕事をしている栄養科はそのきっかけを作りやすいと考えています。

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 宮崎さんが筆頭筆者としてまとめた論文「医療栄養情報提供書発行の有用性について」で報告された医療栄養情報提供書をはじめとする栄養管理に関する情報提供が、中央社会保険医療協議会(中医協)に評価されたことも、2018年の診療報酬改定で「退院時共同指導料」に管理栄養士が追加される一因となりました(論文は「日本栄養士会雑誌」2017年6月号に掲載)。
 この論文では、病院と介護施設や在宅の場面で、患者さんや高齢者の栄養情報の連携が十分とは言えず栄養情報提供書の作成も普及していないこと、資料を作成する情報提供側の負担が大きいといった現状を指摘。そこから宮崎さんは日本栄養士会医療事業部のメンバーの一人として、栄養情報提供書の見本を新たに作成して研修会で普及し、実際に使用した転院先では、管理栄養士が栄養管理計画・栄養ケアプランの作成にかかる時間が短縮できたこと、患者さんや高齢者の栄養状態についても維持および改善の割合が多かったという結論を導きました。

どんな仕事においても、「こうだったらいいな」という気づきは誰にでもよくあることです。その気づきを形にして病院内で、地域で、そして日本全国で使えるように普及させていく――。宮崎さんにとって初めての論文執筆でしたが、日々の取り組みの姿勢が医療・介護分野で働くすべての管理栄養士にとって、新たな流れを作るきっかけになりました。
 自分の職場で「こうなったらいいな」を、どうしたら実現できるようになるのか?宮崎さんの仕事術をヒントに考えてみてはいかがでしょうか。

プロフィール:
2000年、専修大学経済学部卒業。2002年、桐生短期大学生活科学科卒業。2004年、管理栄養士国家資格を取得し、(医)群馬循環器病院に管理栄養士として入職。2010年より(福)恩賜財団済生会群馬県済生会前橋病院に勤務。2016年より(公社)日本栄養士会医療事業部常任企画運営委員。がん病態栄養専門管理栄養士。

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