公共社団法人日本栄養士会 公共社団法人日本栄養士会

ログイン
   

ログインについて

パスワードを忘れた方

ようこそ
 さん

  1. Home
  2. 特集
  3. 行政の管理栄養士ならではの研究で健康長寿な県民を、より健康に

行政の管理栄養士ならではの研究で
健康長寿な県民を、より健康に

トップランナーたちの仕事の中身♯041

赤堀摩弥さん(静岡県熱海健康福祉センター(静岡県熱海保健所)医療健康課医療健康班専門主査、管理栄養士)

20191104_01.jpg

 もし、あなたが静岡県民で、「静岡県は健康長寿のトップクラスで、都道府県別で見ると健康寿命は全国平均よりも長いですよ」と言われたら、どう思いますか。うれしい気持ちにはなるでしょう。でも、1人の個人として自分の健康を振り返ってみると、はたして本当に健康長寿に生きられるのかどうか、健康長寿でいるためにはどうしたらよいのか、ちょっと気になりませんか。
 健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことで、寝たきりや認知症など介護を必要とする期間を差し引いた期間のことをいいます。平均寿命と健康寿命の差は全国の平均で男性ではおよそ9年、女性では12年程あると計算されています。健康寿命の期間をできるだけ長くして要介護の状態にならないようにすることが、個人にも、自治体の健康に関する施策にも求められています。

 静岡県に勤務する管理栄養士の赤堀摩弥さんは、健康長寿の静岡県民をより健康へと導くために仕事をしています。県職員としての管理栄養士は赤堀さんを含めて25名、県庁の他、各地の保健所などで活動しています。
 全国的に見て健康長寿のトップクラスの県といえども、健康に無関心な人は少なからずいるものです。健康でいたいと思っても、どのような行動に改善したらよいのかがわからない人もいます。県として健康についての課題が全くないわけでもありません。実際には、静岡県には全国平均に比べて脳血管疾患による死亡者数の割合が多いという課題があります。赤堀さんは、静岡県が県民に3~5年ごとに実施している県民健康基礎調査の中で、「食物摂取頻度調査票」を新しく開発しました。何をどのくらい食べているのかを調べるもので、県民を無作為で抽出し、1500人ほどの県民を対象に実施しました。
 このような調査を県等の行政が実施する場合、多くは大学等に集計や解析を委託することが多いのですが、静岡県には「総合健康センター」という県独自の研究機関があり、県の職員が自ら調査の企画を立て、集計して分析し、調査結果を活用した施策を展開するという一貫性をもった健康づくりをしています。

20191104_02.jpg
 
 赤堀さんがこの総合健康センターに在籍していたときに、食物摂取頻度調査の結果から生み出したのが、「食の地域差マップ」です。東西に長い静岡県は、東京寄りの東部と名古屋よりの西部では、食べ方に差があることを突き止め、県を西部、中部、東部、伊豆の大きく4つの地域に分けると、地域別に摂取頻度の多い食べ物がそれぞれ違うということがわかりました。
 浜松市や掛川市といった西部では、煮物やサラダ等の野菜やいもの料理が他の地域よりも多く食べられており、一方で、富士市、沼津市等の東部や伊豆地方では、総菜パンやコロッケ、チャーハンといった一品で食べられるもの、干物、汁物、漬物など塩分量が高めのものが他の地域よりも多く食べられていたのです。赤堀さんは、これらの食べ物のイラストを静岡県地図に合わせて、地域別の食事の傾向を「見える化」に成功しました。
 もともと健康長寿県の静岡県内でも、肥満者の割合、メタボリックシンドロームの人の割合、高血圧や高脂血症の人の割合等が、県全体に比べて東部の方が有意に高いという"健康格差"がありました。県の職員として、この健康の差を縮めたいと赤堀さんは考えています。

 この食の地域差マップができるまでは、せっかく食物摂取頻度の調査と集計をしても、調査結果をうまく活用できていないという実情がありました。その理由の1つに、赤堀さんをはじめ県の管理栄養士は、実際に県民に対して直接的に栄養指導をすることがありません。直接的な関わりは、市民、町民を対象として、各市町の管理栄養士・栄養士が担うことになっています。だからこそ、「食の地域差マップ」として、市町の担当者が活用しやすい形にしたことが大きな前進となりました。住民にとっても、日々の当たり前の食事が静岡県内だけでも地域によって異なるということを、このマップを通じて知ることができ、食事と健康について改めて考えるきっかけにもなっています。
 「健康施策を実際に推し進めていく先端は、市町の現場です。私たち県職員は、いかに現場の方たちの負担を減らして、後押しできるかが仕事になります」と、赤堀さんは行政栄養士の中での役割分担について話します。

20191104_03.jpg

県民の食塩摂取量を減らすために

 前述の脳血管疾患で亡くなる人の割合が多いという静岡県の健康課題への対策も、これにより見えてきました。東部・伊豆地域をより重点的に、県全体で食塩摂取量の減少を目指すことです。静岡県全体の塩分摂取量は全国平均とさほど変わらないのですが、目標量である男性8g未満、女性7g未満よりは高く、塩分摂取量が少ない佐賀県や香川県等と比べると1gほどの差があることが国民健康・栄養調査の結果から明らかになっています。
 そこで、赤堀さんが開発したのが、県民が自分自身の食事の状況をセルフチェックしながら食塩の摂取量が多いか、適量かがわかるツール「ふじのくに お塩のとりかたチェック票」です。

20191104_04.jpg

 県で実施している食物摂取頻度調査で、県民の食事の状況は把握できていることから、その食事の頻度を問う内容になっています。たとえば、寿司やチャーハン、炊き込みご飯等の味のついたご飯(主食)や、塩鮭、干物、ししゃも、小魚(しらす)といった塩分の高い魚介類、佃煮や塩辛といった塩蔵品等を食べる頻度を、それぞれ「週1回以下、週2~4回、週5回以上」の3つから選ぶ等、生産地として県民の食生活によく登場するものを中心に、19の設問に答えてもらいます。この回答を点数化して、適塩優等生(青信号)、食塩摂取量がやや多め(黄信号)、かなり多め(赤信号)に分類し、それぞれの料理のどれをどれくらい減らせるかを、県民自身が考えなおして実践しやすいようになっています。
 このお塩のとりかたチェック票は、その使い勝手の良さから、市町の現場の管理栄養士・栄養士、保健師等だけでなく、医療機関や健康保険組合等でも活用されており、初年度の2016年度だけでも7万部近くが県民に配布されました。
 「県の公務員というと、決められた業務を全うする四角四面なイメージがあるかもしれませんが、自由な発想や人を巻き込む企画力などを十分に活かせる仕事です」と、赤堀さんは言います。これらの企画は、すでに2本の論文にまとめられています。

 現在は、研究機関である静岡県総合健康センターを離れ、静岡県熱海健康福祉センター(静岡県熱海保健所)に在籍し、健康課題に向けて食事・栄養からの対策だけでなく、禁煙支援や受動喫煙防止対策等にも力を入れています。特に、管轄している熱海市・伊東市は喫煙率も県平均より高くなっています
 「スポーツ栄養の講座にはお母さんたちが多く集まり、熱心に聞いてくださいます。そこに受動喫煙のリスクの話も加える等すれば、喫煙の問題を真正面から話すよりも効果は大きいと思います」と話す赤堀さん。赤堀さんの自由な発想と表現力が、静岡県民全体の健康の底上げにつながっていきます。

プロフィール:
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業。1995年、静岡県庁入庁。95~97年、下田保健所松崎支所。98~99年、東部健康福祉センター健康増進課。2000年、東京事務所(厚生労働省に派遣)。01~04年、静岡県総合健康センター。05~10年、熱海健康福祉センター医療健康課。11~17年、健康増進課総合健康班。18年度より現職。2018年、日本栄養改善学会「学会賞」を受賞。

PR賛助会員からのお知らせ