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好き嫌いのある子にも「食べてみようかな」と思わせる栄養教諭

トップランナーたちの仕事の中身♯042

口野佳奈さん(船橋市立法典西小学校栄養教諭、管理栄養士)

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「好き嫌いがある子でも、少食の子でも、食事が進む方法があるんですよ!」と、船橋市立法典西小学校の栄養教諭、口野佳奈さんは言います。
  小・中学校で働く栄養教諭や学校栄養士、保育所等で食育を担う管理栄養士・栄養士、そして、子育て中の保護者なら、「その方法って?」と、だれもが気になるところでしょう。 「その子の目をみて、噛む回数をゆっくり数えてあげること。1、2、3、4...、なかなか飲み込めない子は100回、200回でも付き合います。ごくんと飲み込めたときには、『よく食べられたね』、『うれしいね』と一緒に喜びます。教室のあちこちから、『私も数えて~』の声があがります。」
 自分が食べることにここまで寄り添ってくれる、口野さんの姿勢が、子どもたちの信頼につながります。

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 口野さんは、好き嫌いが多い子でも、食わず嫌いがある子でも、「本当は食べてみたいという気持ちがある」と考えています。その隠された気持ちを、子供と関わりながら見つけていきます。
 1年生の男の子が、さくらんぼに手をつけず、「おれ、きらいだから」と言って、残そうとしていました。その様子を見て、食べたことがないのかもしれないと感じた口野さん。「さくらんぼはね、実を口に入れて、軸をピッと取って、口の中で30回噛んでみよう。実とタネが別々になったら、タネをプッと出すんだよ。やってみようか」すると、男の子はさくらんぼを口の中に含み、チャレンジ。口野さんは「そう、そう」と見守ります。

 給食で冷凍みかんを出すと、「酸っぱいから嫌だ」、「冷たいから食べたくない」と言う1年生がちらほら。給食の時間に各教室を回っている口野さんは、1年生に「みかんは、あたたかくなると甘くなります。これって本当かな?『いただきます』のあいさつのあと、みかんを半分に割って確かめてみよう。半分はそのままにして、もう半分は房をバラバラにしておきます。最後のデザートの時間になったら、冷たいみかんと温かいみかんになっています。どうぞ味を確かめてみてください。そして、私が言ったことが本当だったか、あとで教えてくださいね。」と伝えます。
 「みかんにはビタミンCが入っているから食べましょう、と伝えるだけでは、小学生が食べてみようという気持ちにはなりません。どこをどう切り崩せば、子どもたちに『食べてみたい!』と思わせることができるのか?それを考えて、子どもたちに試すのがとても楽しいです」

 「嫌いだから」という理由よりも、家庭での食事のバラエティが狭くなっているために、「食べたことがない」、「どんな味がするのか、どんな硬さなのかを体験したことがないから(食べることが)不安」という事実が、好き嫌いを増やしているのではないか、と口野さんは考えます。「食べてみたい」と思ってもらうことが必要で、献立の内容や栄養素の話だけではなく、子供への敬意が根底にある関わり方が求められていると認識しながら進めています。

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 2019年10月には、給食についての感想を自由に書いてもらう紙「あじわいカード」を用意して、投稿できるポストを1週間、校内に設置しました。
 ある日の献立で、切り身ではなく「カマ」を使った鮭の塩焼きを提供した日がありました。「低学年の子どもたちには少し食べにくいかもしれないけれど、魚の部位を知ってもらうためにも出してみよう」と献立に加えたのです。
 投函された「あじわいカード」には、「お魚がフワフワで、ホネについていた魚までぜんぶ食べてしまいました」という感想が。カマから細かく身を外して一生懸命に食べた様子が伝わってきます。他には、「今日のさけは、すこしあまくて、すこししょっぱかったです。こふきいもといっしょにたべると、すごくおいしかったです」という感想も。「あじわいカード」には口野さんが返事を書きます。「するどいですね! びっくり!! じつはさけとじゃがいもは、あいしょう(相性)がばつぐんのくみあわせなのです。いいセンスしています」と記して、返しました。給食の先生から、こんなお返事をもらった子は思わずにっこりして、より給食が好きになることでしょう。

 「子どもたちが真剣に書いてくれるから、こっちも真剣に返事を書かなければと思うようになります。」と、口野さんは言います。期間限定のポストの設置が終わったあとも、「あじわいカード」を職員室に持ってきてくれる子がいるそうです。

 法典西小学校の掛村利弘校長は、「給食を残さずに食べよう、残菜0をめざそうと多くの小・中学校で取り組んでいることでしょう。『食べ終わるまで、お昼休みは無し』など、力づくの現場も過去にはありました。口野さんのアプローチの方法は従来のものとは違います。子どもたちに『食べたいな』と思わせるための勉強量と行動量が並ではありません。他の栄養教諭が真似するのは、ちょっと難しいと思いますよ」と話します。
 掛村校長が「信じられないような行動をする」と表現するのは、口野さんが発行している給食メモ「きゅうしょくだいすき」を作成したり、授業を行ったりするための、取材をはじめとする情報収集のことです。「きゅうしょくだいすき」の内容は、給食委員会が給食の時間に校内放送で伝えると共に、各クラスにも1枚ずつ配布され、担任の先生から説明されます。説明の仕方はそれぞれのクラスの先生に任せています。

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 「すみません、学校の栄養士です。収穫の様子を撮影させてください!」
 口野さんは以前「かぶ」について子供たちに教える機会を与えられたとき、何をどう教えたらいいのか思い付かず、「あの辺にかぶを育てている畑があったような...」という記憶を頼りに出勤前の早朝に車を走らせて、かぶを収穫している農家にこう声を掛けました。かぶがどのように育っているのかを自分の目で確認し、話を聞き、収穫している様子を写真に収めて、その事実を子供たちに伝えました。
 その熱意を受けて、次第に農家のほうから「次は何を知りたいの?」と聞いてくれるようになり、「ブロッコリーです」と答えると、知り合いの農家にその場で電話を掛けてくれて、「ブロッコリーの収穫作業を見てみたいっていう学校の先生がいるんだけど、いつ頃収穫する?」と、つないでくれたこともありました。

 全校遠足で給食がない日には、校長先生に外出の許可をもらって、にんじんの収穫から市場での出荷まで同行をさせてもらったことも。農作物だけでなく、県内の鴨川市で大潮の日にヒジキ刈りを見せてもらったり、イベントに出展していた鹿児島県のかつお節製造業者に声を掛けて地元でのかつおの食べ方を詳しく聞き出したり。台風で稲が倒れたと聞けば、田んぼに出向いて現場の状況を確かめ、かぶが飛んでしまった話を聞けば知り合いに電話を掛けてみる。悪天候でいつも通り生産されないことを、また、悪天候であっても給食用に作物を育ててくれる人がいるということを、自分たちのすぐそばで食べ物がどんな風につくられているかを給食メモや授業、給食の時間の関わりをとおして子どもたちに伝えていきます。

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 掛村校長は「教員としての教材研究の深さがすばらしい」と話します。「子どもたちを育てていく方向性がまっすぐで、口野さんが校長になったらおもしろいと思う」と、教員としての資質に太鼓判を押します。それに対して口野さんは、「私から給食を取り上げないでくださいよ~!」と笑って返し、栄養教諭の仕事の奥深さをますます追求していく姿勢を見せています。

プロフィール:
筑波大学第三学群社会工学類卒業後、東京都内の百貨店に勤務。退社後に香川栄養専門学校栄養士科に入学。2000年、卒業。同年、八千代市立高津小学校着任。2003年、船橋市立高根東小学校着任。2008年、管理栄養士取得。2014年、栄養教諭となり船橋市立法典西小学校に着任。2018年、「平成29年度文部科学大臣優秀教職員表彰(食育の推進)」を受ける。

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