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ホテルウーマン×管理栄養士がおもてなしの姿勢で現場を支える

トップランナーたちの仕事の中身#074

池田梓さん(株式会社秋田キャッスルホテル メディカル事業部メディカル栄養課、副支配人、管理栄養士)

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 秋田市の中心部にある、久保田城。秋田市は久保田城の城下町として、江戸時代から今日まで発展してきました。その久保田城址の前にたたずむ秋田キャッスルホテルは、県を代表する政府登録の国際観光ホテルで、宿泊だけでなく、国際会議や学会、さまざまな会合、結婚披露宴などに利用され、国内外から多くの人々が集まります。
 この秋田キャッスルホテルでは「ホテル品質を医療・福祉の現場に」のコンセプトで給食業務を受託しており、秋田県内の40ほどの病院・高齢者施設で食事が提供されています。各病院・施設に配属されている管理栄養士・栄養士のマネジメントの役割を担いながら、それぞれの病院・施設のニーズに応えた食事となるように献立作成をしているのが、メディカル事業部の管理栄養士、池田梓さんです。

ホテル品質を福祉の現場へ

 池田さんが所属するメディカル事業部は約20年の実績があり、ホテル内でも重要な業務として位置づけられています。
 「病院・施設ごとに契約が異なり、それぞれで設定された栄養価や禁止食材などがあり、また麺の日やパンの日、行事食の日もまちまちです。決められた材料費を考慮しながら食欲増進につながる仕上がりにしなければなりませんが、最近は物価の上昇が激しく、食材選びには苦戦しています。当ホテルには購買課という部署があるので、新たに取り入れてみたい食材があれば相談し、日々の食事に変化をつけ、喜ばれる料理になるようにしています」
 病院・施設で特に喜ばれている秋田キャッスルホテルの料理は、嚥下機能に合わせて物性を調整した「ソフト食」。ホテル内の厨房で、常食と同じ材料で調理したものをミキサーにかけ、凝固剤を入れて真空調理にしたのちに冷凍します。真空パックの状態で冷凍された料理が各病院・施設に運ばれ、それぞれの厨房で湯せん解凍し、撹拌し直し、型に入れたり喫食者に合わせて大きさを変えたりして盛り付けて提供します。
 お祝い事の行事食で提供される、お寿司や天ぷらもソフト食で対応しています。寿司飯や刺身(ネタ)だけでなく、写真のようにいなり寿司の油揚げや太巻き寿司の具までソフト食で再現。この高い調理技術が、ホテル品質の1つです。

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常食(左)、ソフト食(右)

 池田さんが在籍するメディカル事業部には、ホテルや日本料理店などで長年の経験がある調理指導員が4人います。病院・施設に出張して現地の厨房で調理師・調理員たちに技術を指導するだけでなく、各施設での行事に参加して、高齢者の目の前で寿司を握ったり、ローストビーフを目の前で切って分けて盛り付けたり。そのおもてなしの仕草も、利用者やその家族から「ホテルの料理が施設で食べられるなんて!」と好評です。
 このコロナ禍では、予想外のことも多くありました。各施設で感染対策をするために、季節の行事がなくなってしまい、上記のようなお楽しみの料理が減ってしまったり、介護スタッフの急な欠勤で食事介助の人手が減り、手がかかる麺の料理を出せなくなったり。急な食事変更の依頼が頻繁に生じましたが、池田さんは「私たちの仕事は、献立作成→発注→調理→無事に食事を提供→食器の洗浄という一連の流れの中で成り立っています。給食会社の私たちと各病院・施設の皆さんで365日毎日3食頑張って、患者さんや利用者さんの健康管理という結果につながります。私はこのチームワークでの仕事が大好きです」と話します。

委託給食の管理栄養士だからできること

 池田さんは、いろいろな病院・施設の管理栄養士・栄養士たちとかかわれる給食委託会社の仕事に憧れて、30歳前に秋田キャッスルホテルに転職しました。
 「給食委託の管理栄養士・栄養士の業務にやりがいがあり、誇りをもっています」池田さんがこのように語るのは、東日本大震災での経験が大きく影響しています。
 当時、池田さんは高齢者施設に勤務する管理栄養士でした。震度5強の地震が発生した後、ライフラインが止まり、物流も途絶えて、食材が予定通りに納品されない状態が数日間続きました。そのような状況で、施設で委託していた給食会社の調理スタッフが「利用者さんに食事を出せなくなったらどうしよう」と不安でいっぱいの池田さんのそばで「頑張ろう」と励ましてくれ、懐中電灯の明かりの下、皆で使命感に燃えて知恵を出し合い、協力して毎日3食提供し続けることができたのです。
 しばらくして震災当時の日々を思い出したとき、調理スタッフたちの存在の心強さがもっとも胸を打ち、「使命感を持って働く調理員の皆さんのそばで仕事がしたい」と池田さんは心に決めたのでした。

 池田さんが職場を秋田キャッスルホテルに移して10年が経ちましたが、自身の業務に欠かせないものの1つとして、「会話」を挙げます。
「県内でも管理栄養士・栄養士の先輩たちが引退されて、後輩が増えてきているのを実感します。質問をされたり、助言を求められることも増えました。正確な答えは出せなくても、何かヒントになる話や、背中をそっと押せるような声かけを心がけています」
 そのあり方は、池田さんがホテルウーマンとなってより磨かれていったのかもしれません。副支配人でもある池田さんは、管理栄養士としてだけでなく、ホテル運営に関わる業務も多くあります。池田さんは職場のどこであっても、背筋が伸びた姿勢と、にこやかな笑顔は欠かさないようにしています。「信頼を失うのは一瞬」という危機意識を持ち、言葉づかいや気配りにも手を抜くことはありません。

県民の健康寿命延伸につながる取り組みを

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 勤務する秋田キャッスルホテルで開かれた会議で、池田さんは目がさめるような思いをしたといいます。
 それは、2022年6月に開催された「GGG +フォーラム秋田2022」で、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて、政府関係者や大学教授、民間企業が集まり、感染症や貧困、栄養について話し合う会議でのこと。登壇した(公社)日本栄養士会の中村丁次会長の、「日本は高齢化率が世界で一番高く、その日本の中で秋田県が一番高い。それは、秋田での健康づくりを世界が注目しているということで、管理栄養士・栄養士としてやりがいのある環境にいるというということだ」という言葉を聞き、池田さんは「秋田にいながら、世界に発信できるようなことがあるんだ!」と気づかされたのです。
 秋田県内で生まれ育ち、学生時代も県内で過ごした池田さんは、「正直に言うと、秋田の良さが当たり前になっていて、この現状に麻痺していました」と振り返り、中村会長の言葉を聞いたあとから、管理栄養士の使命を再認識したそうです。
「秋田県民の栄養状態の向上と健康寿命の延伸につながるよう、今の立場で何ができるのかを考え、日々の業務の一つひとつを大切に積み上げていきたいと思います」 

プロフィール:
2005年聖霊女子短期大学専攻科健康栄養専攻卒業、管理栄養士取得。秋田県立岩城少年自然の家にて栄養士として1年勤務した後、社会福祉法人に就職。特別養護老人ホームで6年半、管理栄養士として業務にあたる。2012年10月より株式会社秋田キャッスルホテルメディカル事業部において病院・福祉施設を対象とした給食事業に従事。給食現場で働く管理栄養士・栄養士のサポートのためにメンタルケアカウンセリングを学ぶ等、独自の取り組みも行う。公益社団法人秋田県栄養士会所属。

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