医療資源の少ない離島でモバイルクリニック事業等、地域支援に尽力
2026/04/06
トップランナーたちの仕事の中身#115
江頭清美さん(長崎県五島中央病院栄養科、管理栄養士)
長崎県五島列島で長年にわたり、基幹病院の管理栄養士として地域に密着した支援を行う江頭清美さん。五島市と連携したモバイルクリニック事業等、新しい取組にもチャレンジする活動について伺いました。
多職種スタッフ、患者の声を聞き、改善につなげる
長崎県の西の海上約100 kmに位置する五島列島は、10の有人島と53の無人島からなっています。江頭清美さんは、五島列島最大の島、福江島にある長崎県五島中央病院(以下、五島中央病院)の管理栄養士として勤務し、22年になります。
「私は福江島の出身です。佐賀県の栄養士養成校を卒業後、福岡県の給食委託会社に管理栄養士として就職しました。4年が経ったころ偶然、五島中央病院で管理栄養士を募集していることを知り、郷里に戻りたいという気持ちから転職しました」
五島中央病院は五島列島を有する五島市の基幹病院として地域医療の中心を担っています。
「入院・外来患者の栄養食事指導、入院患者の栄養管理、給食管理に関する統括を担当しています。患者は高齢者が大半ですが、こどもを含めた全世代が来院し、急性期、回復期、慢性期とさまざまな状況に対応する必要があります」
日々の業務では患者はもちろん、多職種スタッフとの連携を大切にし、相談や要望を受けた際は栄養科内で早急に共有し、相手の意見を聞きながら解決策を講じるようにしているといいます。
「個別の相談とは別に、定期的に多職種が意見交換をする場として、サービス向上委員会が設けられています。3年ほど前になりますが、退院時のアンケートで小児科病棟に入院していた患者の家族から『和食ばかりで高齢者向け。こどもが食べやすい食事を出してほしい』という声が寄せられました。栄養科内で話し合い、入院中でもこどもが喜ぶ食事の提供を目指そうと意見がまとまり、サービス向上委員会に提案したところ、病院食は疾患の治癒や回復を促進する役割を担うのだから対応が必要と同意を受け、改善に取り組むことになりました」
江頭さんを中心に栄養科では、近隣の保育所の給食献立を参考にし、五島中央病院でも洋食を増やすことにしました。ごはん中心だった主食は、朝食は週に2回をパンにし、麺は週に1回から2回に増やした。昼食がごはんの場合は、星やボール状等に型取りして提供することにしました。
「献立改善後は、食事に関するコメントはピタッとなくなりました。また、配膳トレイに折り紙で作った車等を添えて供食したところ、こどもたちに大うけ。付き添いの家族や配膳する病棟看護師からの反応も大きく、「折り紙がかわいくてこどもも喜んでいました」、「素敵な折り紙ありがとうございました」と喜ばれました。この取組は社団法人長崎県栄養士会の栄養改善学会で発表しました」
要請を受け、病院外でも活躍
五島中央病院では多職種が連携して行う摂食嚥下、NST、糖尿病、緩和ケア、褥瘡といったいくつかのラウンドがあり、江頭さんも参加しています。
「以前、摂食嚥下ケア事業に参加した際には、地域の基幹病院の管理栄養士として、当院の摂食嚥下認定看護師と五島市内の福祉施設に勤める言語聴覚士や歯科医師と共に、介護施設を訪問して、事例検討会や講演会を行った経験もあります。この他、地域の医療介護職を対象にした、『口腔機能の向上・栄養改善研修会』でも講師を務めています。また、摂食嚥下チームを立ち上げた当初からの課題であった地域連携に関して、3年前には五島市役所と協働して、医療・介護・在宅療養等に携わる人に活用いただけるよう『嚥下調整食コード対応表』を作成しました」
江頭さんは、五島中央病院の付属診療所にあたる奈留医療センターへ、業務の1つとして月1回訪問し、入院患者の栄養管理や慢性疾患を有する患者の外来栄養食事指導を担当しています。
地域に密着した基幹病院ならではの業務依頼もあります。
「長崎県立五島高等学校の衛生看護科で、栄養管理の講師として週1回、半年間で30単位の授業をしています。毎年、五島中央病院で病院実習を行なっており、実習期間中も必要に応じて栄養に関する指導を行います。昨年からは五島警察署の依頼で、五島拘置支所の収容者に提供する食事の栄養価計算と栄養に関するアドバイスを行っています。医療資源が限られている離島だからこそ、これからもさまざまな形で地域支援に貢献していきたいと思います」
モバイルクリニック事業でオンライン栄養食事指導
五島中央病院は、行政や関係団体から地域の医療関係の課題解決に向けた取組について相談や協力を求められることも多いという。2023年から五島市が実施しているモバイルクリニック事業(以下、MC事業)への協力もその1つです。
「定期的な診療が必要な慢性疾患を持っていても通院が難しい患者への対策は、離島では避けて通れない問題です。MC事業とは、医療・通信機器を設置した専用のモバイルカーに看護師が同乗して患者の自宅付近まで行き、患者はモバイルカー内でオンライン診療を受けるというものです」
通常のオンライン診療は自宅で患者自身がデジタル機器を操作しなければならず、高齢者には操作の難しさがハードルとなっています。しかし、モバイルカーでは同乗している看護師が操作のサポートをはじめ、患者の症状や所見を医師に正確に伝えることが可能です。MC事業は糖尿病重症化予防の取組に位置付けられており、導入時に担当医師からオンラインによる栄養食事指導の導入が提案され、関係各所との協議を経て、五島中央病院に勤務する江頭さんを含めた3人が交代で担当することになりました。対象者は、管理栄養士が不在の五島市国民健康保険玉之浦診療所を受診している糖尿病患者としてスタートし、栄養食事指導は初回は対面、2回目以降はオンラインで行い、現在も継続して数人の患者への指導を行っています。
「画面越しの情報伝達となるため、うまく患者に伝わるか心配でしたが、フードモデルを見せる等して工夫しました。患者によっては車内に食品を持ち込んで『これ食べていい?』と画面越しに見せることや、減塩指導では普段食べているみそ汁を持参して看護師に塩分濃度を測定してもうこともあり、患者、管理栄養士双方にとって有益な情報が得られたのは予想外の収穫でした。『専門職からいろいろな話が聞けてうれしい』、『自分のために医療者が関わってくれるから、食事の改善をがんばれた』等、大変うれしい声をもらっています。市の事業に協力することで、地域の高齢者の栄養改善の一歩が踏み出せたこと、院外関係者とのネットワークが広がり、管理栄養士としての活動範囲を拡大できたことを生かして、さらに受診者が増えるように関係者と共に努めたいと思います」
患者の心と体に寄り添う管理栄養士でありたい
江頭さんは管理栄養士として院内外でキャリアを重ねるにつれ、患者の心と体の両面から寄り添う栄養食事指導を心掛けるようになったといいます。
「例えば化学療法の影響や病状から食欲不振がある患者は、自身でも十分に食べられていないとわかっています。こうした患者に、管理栄養士が問題を指摘してしまうと食べること自体がストレスになりかねないため、体調は看護師に聞き、食事量は下膳を確認して把握し、病棟訪問の間隔はあえてあけることもあります。管理栄養士は栄養と食の専門職ですが、患者に気付きを促すカウンセラーの役割もあるように感じます。今後も患者のモチベーションアップや食事療法の質の向上、疾患の重症化予防につながるようにスキルアップをしていきたいと思います。まだ漠然とした夢ですが、退職後も管理栄養士としてのキャリアを生かして在宅患者に関わる支援等、できる限り地域を支える活動を続けていきたいと考えています」
プロフィール:
1997年佐賀短期大学専攻科食物栄養卒業。給食委託会社に就職後、2004年に長崎県五島中央病院に転職。長崎県栄養士会所属。



