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給食を介して地域、保護者とつながりを深め、児童・生徒への食育の充実につなげたい

トップランナーたちの仕事の中身#116

保立貴博さん(茨城県ひたちなか市立美乃浜学園、管理栄養士)

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 大人になったら学校給食の仕事に就きたい。こどもの頃からの夢を実現させ、全国学校給食甲子園で優勝を果たした栄養教諭の保立貴博さん。給食を介した保護者、地域との連携の工夫と児童・生徒の健康を支援する真摯な思いについて伺いました。

義務教育学校9学年の学校給食

 栄養教諭として15年のキャリアを持つ保立貴博さん。栄養教諭を目指したきっかけは、小学校で経験した学校給食のおいしさでした。大人になったら学校給食に関わる仕事がしたいという夢を抱き高校は農業高校へ進学し、寮生活で食と農について学びました。進路相談で管理栄養士と栄養教諭の仕事を知ると、迷わず養成校へ進学を決めました。卒業後は茨城県に栄養教諭として入職し、小学校、給食センターでの勤務を経て、現職の茨城県ひたちなか市立美乃浜学園(以下、美乃浜学園)に着任しました。
 「美乃浜学園は2021年に創立された小学校6年間と中学校3年間で一貫した教育を行う義務教育学校です。私は学校の立ち上げから携わり、着任して6年目になります」

 主な業務は、給食管理と食に関する指導です。
「ひたちなか市の学校給食は市直営調理の自校給食方式が多く、市の共通献立方式を採用して提供しています。9学年の児童・生徒が同じ献立を食べるため、学年ごとの発達段階に見合った栄養量と食事量を考慮して提供しています。着任当初から現在も、試行錯誤しているのは食嗜好の発達差です。例えばカレーの場合、高学年には辛口が人気ですが、低学年は甘口でないと食べられません。
全員分を大鍋で一度に作るため、給食時間にクラスを回って児童・生徒の感想を聞いたり、残食量をチェックしたりして、全学年がおいしく食べられる味つけを研究しています」

全国学校給食甲子園で優勝

 学校給食に魅せられて栄養教諭の道を選んだ保立さんは快挙を達成しました。特定非営利活動法人21世紀構想研究会主催の全国学校給食甲子園2021年第16回大会で美乃浜学園が優勝したのです。
 「美乃浜学園の創立年に周囲の勧めで初めて応募したのですが、応募数が1,355件と激戦だったこともあり、優勝が発表されたときはとても驚き、児童・生徒たち、調理を担当した調理員、他の先生方と共に大感激しました」
 優勝した献立は、干しいもとちりめんじゃこの混ぜご飯、牛乳、奥久慈しゃもとれんこんのかみかみソテー、茨城彩り野菜とさくらたこの梅香さっぱりあえ、常陸の輝きまろやか豚汁、バインベリー。地場産物を全品に使用し、使用割合は全体の約8割です。
 この給食は給食委員会委員が1人1献立ずつ献立を考え、児童・生徒たちと意見を交わし、アイデアを取り入れながら、保立さんが栄養価、調理の制約等を調整して完成させました。
 「例年、地場産物を使った献立が求められます。茨城県は食材の宝庫で、美乃浜学園は周囲をさまざまな農作物の畑に囲まれ、海も近く漁港にも歩いて行けます。日頃から食育指導のひとつとして、近隣の生産者にお願いしてさつまいもの栽培・収穫、収穫物を使った干しいも作りや、ひたちなか市特産のつる付きいちご(商品名:バインベリー)のいちご狩り等の体験学習をさせてもらっています。児童・生徒が献立を考える際は、どんな地場産物があるかを調べて共有することから始め、体験学習で得た学びを生かして献立に落とし込めるよう指導しました」

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 優勝により、美乃浜学園の児童・生徒、教職員が喜びに沸いたのはもちろん、こどもから話を聞いた保護者、新聞記事やネットニュース等で知った地域住民からも「優勝献立を食べてみたい!」という声が寄せられ、美乃浜学園の給食は一気に注目を浴びました。保立さんはこの盛り上がりを「家庭や地域と連携して児童・生徒の食を共に考える機会にしたい」と考え、優勝後まもなく、各学年の児童・生徒と保護者がランチルームや人工芝の中庭で給食を食べる「親子給食会」と、学区の地域住民を対象にした「美乃浜学園学校給食会食会」(以下、給食会食会)を企画しました。
 「会では、献立に使用する地元食材の紹介やおいしい減塩の方法といった栄養講話を行い、食育への取組を知ってもらえるようにしました。参加者からは大変好評で、また開催してほしいという声が多かったため、毎年開催するようになりました」

保護者、地域住民とつながる給食会

 取材に伺ったのは、ひたちなか市磯崎地区の住民を対象にした2025年度「給食会食会」の開催日。参加には事前の申し込みが必要で、参加者は美乃浜学園に通う孫と共通の話題がほしいという児童・生徒の祖父母、給食制度がない時代に育ったので一度給食を食べてみたいという人、どんな給食が提供されているのか知りたかったという入学を控えたこどもの保護者等、さまざまでした。
 開催時間が近づくと事前に申し込みをした30人が続々と集まり、給食代の1食270円(税込)を支払ってランチルームの席に着きました。PTAの保護者が配膳を進める間、学校長、教頭、自治会長からのあいさつ、保立さんによる献立説明と続き、時折笑いが起こるなごやかな雰囲気に包まれました。その後は、給食を食べながら保立さんの栄養講話に耳を傾けたり、栄養にまつわる質問をしたりと順調に進行し、最後に給食委員会の児童・生徒から参加者一人ひとりに日頃の感謝をつづった手紙と、3年生が授業で作った干しいもが贈られて閉会しました。
 参加者が満足げに退出するかたわらで、保立さんに話しかけ、栄養や食について尋ねる人もいました。「親子給食会、給食会食会の申し込みに、食について相談したいことを記載できる欄を設け、相談がある人には会への参加時に、個別に栄養教諭としてアドバイスを返しています」と保立さん。
 「食の悩みは抱え込みがちですが、給食の会で来校したときなら気軽に聞けるのではと個別相談をはじめました。保護者からは、『美乃浜学園に管理栄養士資格を持つ栄養教諭がいることを初めて知った』、『わざわざ連絡して相談するのはハードルが高いが、会と併せてだと話しやすい』と着実に相談件数は増えています。栄養教諭として、保護者や児童・生徒、地域住民が抱える食や健康の課題をキャッチする貴重な機会となっています」

指導力のスキルアップを目指し大学院へ

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 保立さんは児童・生徒の偏食、朝食欠食、過度肥満・やせ等といった健康課題の改善につなげるため、給食の時間や教科等(家庭科、保健体育科など)の時間を利用して栄養や食事の重要性を指導するとともに、特別な配慮が必要な児童・生徒への個別指導にもいっそう注力したいと考えています。
 「近年、こどもの食の問題はインターネットやSNSの影響もあり、栄養教諭は指導力のスキルアップが必要です。私自身、後輩の栄養教諭を指導する機会が増えていることもあり、栄養食事指導、食育に関してもっと指導力をつけたいと考え、勤務を続けながら、食育や健康教育について専門的に学べる教育大学大学院の学校ヘルスケア領域に在学して遠隔教育で学んでいます」
 「仕事ではできる限り断らない、あきらめない、やり遂げることを大切にしている」という保立さん。
 「教え子たちが、私にあこがれて管理栄養士や栄養教諭を目指していたり、大人になっても私が教えた食育や給食のおいしさを覚えているという話を聞いたりすると、がんばろうという意欲が湧いてきます。現在の栄養教諭制度で、栄養教諭の配置が各学校に必須でない以上、栄養教諭が自ら教員、保護者、地域に存在をアピールし、給食を提供するだけではなく、主体的に食を通じた教育的
価値を創出することが重要だと考えます。学校給食と食育の両面から、こどもたちの健全な成長や発達を促し、未来の健康を支えていくと同時に、栄養教諭としての専門性を生かして、学校教育全体に役立つ存在になりたいと思います」

プロフィール:
2012年茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科卒業。同年、茨城県に栄養教諭として入職。石岡市立柿岡小学校(八郷学校給食センター兼務)、ひたちなか市立長堀小学校での勤務を経て現職。2026年4月から勤務しながら上越教育大学大学院学校教育研究科教育実践高度化専攻発達支援教育実践研究コース学校ヘルスケア領域在学。2020年文部科学大臣優秀教職員表彰。茨城県栄養士会所属。

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