給食施設における科学的エビデンスに基づいた改革で効率とおいしさの両立を目指す
2026/06/01
トップランナーたちの仕事の中身#117
朝見祐也さん(龍谷大学農学部、管理栄養士)

給食経営管理論の研究者・指導者として時代に適した実践的な研究と、科学的根拠に基づいた業務を遂行できる管理栄養士・栄養士の育成に尽力する朝見祐也さん。研究への信念と、学生指導に込めた思いを伺いました。
給食施設の安全・安心、おいしい食事の両立
管理栄養士の朝見祐也さんは専門学校や大学において 25年にわたって教鞭をとり、管理栄養士・栄養士の養成に注力してきました。
「こどもの頃から料理が好きで、高校時代は理系だったことから管理栄養士の仕事に興味を持ち、神戸学院大学栄養学部に進学しました。最初の勤務先では数年ほど食品学や調理学を担当していましたが、管理栄養士だからこそ教えられる分野を深めたいと考え、以降は給食経営管理論を専門分野として指導にあたってきました」
給食経営管理論は経営管理、栄養管理、衛生管理、食材管理、生産管理等、給食施設の運営に関わる全てを考える学問です。朝見さんは給食施設における食事提供において「安全・安心」と「適切な栄養管理」は土台であり、さらに求められるのが「おいしさ」だと指摘します。
「しかし、給食は『味気ない』、『温かくない』、もっときびしく『まずい』といった声が聞かれることも事実です」と朝見さん。給食は学校、病院、保育所等のさまざまな施設で、特定多数の人に対して食事を提供すること、あるいはその食事をさし、その目的は、栄養管理がされた食事で対象者の健康を支えることにあります。
「例えば医療・福祉施設で提供される給食は、管理栄養士により高度な栄養管理がなされています。しかし、患者や利用者が喫食しなければ給食の目的は達成されません。喫食率を高め、高度な栄養管理を実現するには、おいしさは重要な要素です」
給食施設での美味な食事の提供が難しい理由に、調理から提供までに一定の時間がかかり、できたての状態を保ちにくいことが挙げられます。近年では、食材料費や人件費の高騰、人手不足等の問題が給食現場を直撃しています。そのため、調理済みの料理を冷却・保存しておき、再加熱して提供する作り置き方式が増えていますが、再加熱により食感や香りが犠牲になるデメリットも生まれています。
「こうしたジレンマを科学的に分析し、改善策を探ることは、管理栄養士が中心となり、給食現場で培った知恵と工夫が生きると考えています。検証手法の例として、まず再加熱温度や時間を詳細に記録し、対象者の残菜量や満足度と照合します。さらに調理工程ごとに味わいの変化をデータ化し、これらのデータを分析することで、その施設にとって最適な調理条件が導き出せます。研究というと難しく感じるかもしれませんが、ベースとなるのは地道な記録と検証の積み重ねだと考えます」
社会人院生への指導に尽力

朝見さんは、2015年に現職の龍谷大学に着任し、学部生の給食経営管理論を担当してきました。2018年に大学院農学研究科食農科学専攻が開設されると院生への研究指導も担当することとなりました。朝見さんの研究室では、これまでに博士号取得者7人、修士号取得者4人を輩出し、現在は博士後期課程に8人、修士課程に3人が在籍しています。特徴的なのは、管理栄養士・栄養士養成校の教員・助手、給食施設の実務者等、全員が社会人であることです。
これは社会人に広く門戸を開くための工夫のたまものでもあります。例えば、修士課程は座学を決まった曜日にまとめて開講する、博士課程は、座学をオンデマンドで開講し、指導教員とは電話、Eメール、オンライン会議ツールを使ってやりとりをするといった仕事との両立のしやすさがあります。
「給食経営管理論は栄養学の実践を支える土台として不可欠な分野です。私の研究テーマのモットーは現場主義です。学生たちは社会人ということもあり、希望する研究テーマは給食施設の現場に根差した実践的内容が中心です。研究テーマが思い浮かばないという学生には給食現場での困りごと、疑問は全て研究テーマになるとアドバイスしています」
朝見さんの主な研究テーマは、「美味な食事提供を可能とするクックチルシステムの開発」、「迅速検査法を用いた給食施設における安全な食事の生産方法の開発」、「給食施設の簡便な加熱温度管理手法の開発の試み」等があり、多くの研究成果が、給食現場に還元されています。
「新しい解決法を現場に提案・導入する際、エビデンスは大きな説得材料となります。今後、給食現場では、さらなる効率化と美味性の両立が求められるはずです。その際、管理栄養士は現場のリーダーとしてエビデンスに基づいた解決法を提案・導入し、効率よく現場を動かしていく能力が求められるでしょう」
しかし、給食現場で働きはじめると、業務の忙しさから研究から遠ざかりがちです。
「研究テーマは、自分の現場の困りごとを考えれば、いくつも浮かんでくるはずです。社会人になっても研究を続ける管理栄養士が増えることで、各現場での管理栄養士の地位向上にもつながっていくと思います」
これまで先駆的な研究を続けてきた朝見さんが、近年、注目しているのがデジタル技術の活用です。
「社会の在り方がスピード感をもって変化していく中、給食経営管理は転換期を迎えています。持続可能な給食経営の構築のためには、従来の枠組みにとらわれない柔軟な発想と、ICT(情報通信技術)、AI(人工知能)をはじめとするデジタル技術をどのように導入するかがカギとなります」と朝見さん。
2026年10月10日(土)・11日(日)に開催する「第21回日本給食経営管理学科学術総会」では「時代の変化に合わせたこれからの給食経営管理」をテーマに掲げ、朝見さんは会頭を務めます。
「実践事例や研究成果、さらには現場の声を共有し合うことで、時代の変化への柔軟な対応とともに、変えてはいけない価値について検討・確認する機会になることを願っています」
地域の企業、行政との連携事業

朝見さんは龍谷大学の地元である京都府、滋賀県を中心に、さまざまな連携事業を展開しています。その1つが2023年から続いている龍谷大学農学部食品栄養学科、大学院農学研究科と京都府の東山区にあるウェスティン都ホテル京都(以下、ホテル)のメニュー開発プロジェクトです。2025年度は農学部生が商品化に関わった滋賀県高島市産のオリーブ茶を使ったメニューを考案し、ホテルのブッフェレストランで一般客に向けて提供されました。
「ホテル関係者との打ち合わせ、現地視察、メニュー考案と試作、シェフによる試食と改良点のアドバイス、提供する3品の選定、さらにレシピの改良と多くのステップを経て、レストランで提供されます。学生にとっては、献立開発のノウハウをプロから直接教えてもらえる貴重な機会となっています。この他、滋賀県守山市健康福祉部すこやか生活課健康づくり係と、『おいしく野菜をたっぷり食べよう』龍谷大学農学部×守山市コラボレシピの考案等の連携も続いています。こうしたメニュー開発プロジェクトは商品企画関連会社への就職を目指す学生も多いため、またとない学びとなっています」
朝見さんは指導者として、学生には自分で考え、道を切り開いていってほしいと願っています。
「給食会社に就職する学生が多いですが、現場をマネジメントするリーダーになる人材を一人でも多く輩出できることを念頭に指導しています。例えばAIを取り入れて、安全・安心、おいしい給食を提供できる人が育ってくれればうれしいです。院生は修了後も自力で論文が書ける力をつけてほしいと思います。これからも指導者として、おいしく、効率的な給食の提供の実践が健康を支える土台になることを学生に伝え、活躍できる人材の育成に尽力していきたいと思います
プロフィール:
1999年神戸学院大学栄養学部栄養学科卒業。2001年神戸学院大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修了。京都栄養医療専門学校、南九州大学健康栄養学部管理栄養学科を経て、2015年龍谷大学農学部食品栄養学科に着任し、2022年から教授、現職。2018年から龍谷大学大学院農学研究科食農科学専攻において院生の指導にあたっている。博士(栄養学)。滋賀県栄養士会所属。



