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ラオスの栄養課題に日本の力を~東京栄養サミットから始まった3年間の歩み~

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「東京栄養サミット2021」公式サイドイベントより。左は、在日ラオス特命全権大使フォンサムット・アンラワン閣下(肩書は当時。現 外務副大臣)、右は(公社)日本栄養士会中村丁次代表理事会長。

 2021年12月に開催された「東京栄養サミット2021」。この国際会議で日本栄養士会は、栄養不良が深刻な国・地域に対し、日本の管理栄養士・栄養士が持つ知見を共有し、持続可能な栄養改善を共に進めていくとコミットメントを表明しました。その第一歩として選ばれた国が、ラオス人民民主共和国(以下、ラオス)です。
 人口の多くが農村部で暮らすラオスでは、5歳未満児の発育阻害率が依然として高く、母子の栄養状態改善や学校給食制度の整備、人材育成が急務とされています(※1)。この課題に対し、日本の栄養士制度、公衆栄養の歴史、学校給食を軸にした食育などの知見に基づく栄養改善への支援が確かな価値をもたらす。そう確信したことから『ラオ日栄養改善プロジェクト』が立ち上がりました。

2023年、第一歩を踏み出したラオスとの対話

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保健省にて。サノン・トンサナ保健省副大臣ほかへの中村会長による講演および会談を行った。

 2023年5月、日本栄養士会は初めてラオスを訪問しました。この第一次訪問では、ラオス保健省(MoH)、教育・スポーツ省(MoES)、保健科学大学、国立栄養センターといった、ラオスの栄養政策に関わる主要機関と幅広い対話が行われました。会議で共有されたのは、ラオスの栄養課題がいかに複雑に絡み合っているかという現実です。農村部では発育阻害の深刻な地域が多い一方で、都市部では過栄養、肥満、糖尿病などの非感染性疾患が増加し、肥満と飢餓が共存する栄養不良の二重負荷が深刻になり始めていることがわかりました。また、行政・医療・教育の現場に「栄養士」という専門職が存在しないため、栄養改善の政策を実行に移す人材が不足しています。
 こうした課題の共有は、双方にとって大きな意味を持ちました。日本側は、多くの現場を支えてきた管理栄養士・栄養士の技術が、ラオスにおいても生かせる手ごたえをつかみ、ラオス側は「日本となら現実的に栄養改善に踏み出せる」と信頼を深めていきました。この訪問を機に、両国は"対話の相手"から"協働のパートナー"へと関係性を一歩進めたのです。

2024年5月、ワークショップで見えてきた"共創の姿"

2025121503.jpg保健省にて、「ラオ日栄養改善プロジェクト」ワークショップを開催。プロジェクトの主要な活動について協議した。

 2024年5月の第二次ラオス訪問では、協働はさらに一歩前進しました。この訪問の中心となったのは、日本栄養士会とラオスの行政担当者、大学教員、栄養学者など多様な立場の人々が集まり開催された共同ワークショップです。ワークショップでは、ラオス社会指標調査のデータに基づいて、なぜラオスが栄養改善の取り組みを行っているのに栄養問題が解決できないのか、多角的な議論が行われました。
 印象的だったのは、ラオスでは調査研究に取り組んでいる栄養学者はいますが、日本のような実践的な栄養活動を行う栄養の専門職である「栄養士」は存在しません。そのため参加者全員が、地域で栄養改善を実践できる「栄養士」の育成と配置について活発に議論していたことです。
 日本栄養士会からは、日本の栄養士制度、公衆栄養の歴史、学校給食を軸にした食育などの知見を紹介しつつ、ラオスの文化・食材・社会環境に合った形で栄養改善ができるよう、丁寧に対話を進めました。一方的に"教える"のではなく、"共に考える"アプローチは、ワークショップ全体に温かな一体感を生み出しました。この時点で、ラオ日の協働は「アイデア段階」から「計画を具体化する段階」へと進んだのです。

2024年9月、地域視察で見えてきた"現場のリアル"と可能性

2025121504.jpgサントン郡の小学校を訪問、学校給食と栄養教育の実施状況を視察した。

 2024年9月、第三次訪問では、実際にプロジェクトの対象地域であるサントン郡の小学校と郡病院、保健センターを視察しました。現場の空気を直接感じることで、数字だけでは見えない生活の実態、課題、そして改善の可能性が鮮明になりました。学校では、世界食糧計画:WFP(World Food Programme)からの支援の他、保護者から魚や卵などの食材提供により、給食が提供されていましたが、児童の学年に応じた細かな調理及び配食が行われておらず、そのため、低学年の残食が多くみられました。
 保健センターでは、乳幼児健診については、定期的に実施されておらず、適切な発達に必要な時期(母乳状況、離乳開始、離乳状況、離乳完了等)に必要なポイントを医療従事者が指導できるように支援を行う必要性がみえてきました。地域の熱意は十分にあり、必要なのは、その力を支える"仕組み""教育"と"人材"であることが、視察を通じて明確になっていきました。一方で、行政側からは「政策的に栄養士を育成する必要がある」という強い要望も寄せられ、日本が支援できる領域は広いことが改めて確認できました。
 こうして三度の訪問を経て、ラオスの課題と可能性が重層的に見えてきました。日本の知見を押しつけるのではなく、ラオスの人々と共に歩みながら未来を描く。その姿勢が双方の信頼を深め、2025年の調印式へと道を開いたのです。

2025年、調印式へ

 3年間の協議、視察、共同ワークショップを経て、2025年12月、日本栄養士会とラオス保健科学大学は基本合意書に調印します。この調印は、両国が栄養改善に本格的に取り組む意思を公式に表明した歴史的な節目です。調印式では、「日本の知見がラオスの未来を支える」との言葉が述べられ、ラオス側からは「この協働は、子どもたちの未来を大きく変える力を持つ」との期待が示されました。
 ここで築かれたのは、国を超えた"栄養政策のパートナーシップ"。日本の管理栄養士・栄養士が国内で培ってきた専門性が、世界の健康課題に貢献する力となる。その実感を伴う節目でもありました。
2026年からは、より実践的で、より未来志向の取り組みが始まります。日本の栄養改善の歴史と、管理栄養士・栄養士の専門性が、ラオスの未来をつくる力になる。その具体的な姿を、次の記事で紹介します。

※1 Lao Statistics Bureau. (2025). Lao Social Indicator Survey III (LSIS III), https://nipn.lsb.gov.la/wpcontent/uploads/2025/02/LSIS-III-2023-SFR-Eng-13-02-2025-V_6_7-for-web-Bookmark.pdf.pdf

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