ラオスの未来をひらく、調印式から始まるジャパン・ニュートリションの国際展開
2025/12/16
中央左:ラオス保健科学大学 マイフォン・メイサイ学長、中央右:日本栄養士会 中村丁次代表理事会長、左:ラオス保健省衛生・健康推進局 ビェンカム・ピサイ副局長、右:日本ラオス友好議員連盟 佐々木太郎事務局長
2025年12月15日(月)、クラウンプラザ ビエンチャンにて、ラオス保健科学大学と日本栄養士会は、両国の協働を正式に前進させる基本合意書(MoU)に調印しました。この瞬間は、東京栄養サミット2021で掲げたコミットメントが、単なる理念ではなく、具体的な政策・事業として動き出す「歴史的な節目」となりました。
調印式は、ラオス保健省衛生・健康推進局ビェンカム・ピサイ副局長、日本ラオス友好議員連盟の佐々木太郎事務局長の立ち合いの下、ラオス保健科学大学マイフォン・メイサイ学長、日本栄養士会の中村丁次代表理事会長による署名が行われました。調印式には、ラオス保健科学大学、保健省衛生・健康推進局、ラオス熱帯公衆衛生院など30名超の関係者が出席。日本ラオス友好議員連盟会長の土屋品子衆議院議員からの祝辞(当日は佐々木事務局長より代読)では、「このラオ日栄養改善プロジェクトは、栄養課題解決にむけてきわめて重要」と述べ、ラオス側調印者であるラオス保健科学大学のマイフォン・メイサイ学長も「日本の100年の栄養改善の歴史が栄養不良を解決し、栄養改善のモデルとなることを信じています」 と語りました。
ここから始まるのは、ラオスの栄養政策を根本から支える本格的なプロジェクトです。日本の管理栄養士・栄養士の力が国境を越え、未来を創る新しい挑戦がいよいよ動き出します。
地域から始まる栄養改善、サントン郡での実践が生み出す"目に見える変化"
病院、ヘルスセンターでは、母子栄養について取り組まれている。
調印後、最初に動き出すのが、ビエンチャン首都圏に位置するサントン郡での地域栄養改善プロジェクトです。ここでは、母子の栄養改善と学校を基点とした食育の推進という、日本が長年積み重ねてきた公衆栄養のアプローチを、ラオスの文化に合わせて実装します。
母子を対象とした離乳食支援
サントン郡の多くの母親は、離乳期の子どもに「何を、どれだけ、どう与えるとよいか」を学ぶ機会が十分ではありません。そのため、栄養不足や偏食が生じ、発育阻害の一因となっています。
このプロジェクトでは、(1)郡病院や保健センターのスタッフへの研修 (2)離乳食教室の開催 (3)食材や調理方法をわかりやすく伝える教材整備 (4)子どもの成長を確認するアセスメントの導入といった取り組みが段階的に進められます。
ここで重要なのは、支援の主体が"ラオスの現場スタッフ自身"になることです。日本の専門家はあくまで伴走し、ラオスが自分たちの力で持続できる仕組みを作ることが大切な目標となっています。
小学校3校を基点とする栄養教育の導入
学校給食においても人手が足りず、ボランティアを始めとしたコミュニティの役割が大きい。
対象となる3校(Haitai、Nahoi、Keng Mor)では、学校給食と栄養教育を軸とした活動がスタートします。給食を食べるという日常の中で、「なぜ食べるのか」「どんな食べ方が体をつくるのか」を学ぶ仕組みは、日本の学校給食制度の大きな強みです。教員向け研修では、(1)適量配膳の考え方(2)食べ物の働きを伝える授業づくり(3)給食を使った体験的食育などが実践的に紹介されます。
日本でも、学校給食は子どもたちの肥満改善や学力向上に寄与してきた重要な制度です。サントン郡の小学校でこの仕組みが根づけば、家庭に知識が広がり、地域全体の健康意識が変わっていくことが期待されています。地域から変わる。その変化を支えるのは、日本の管理栄養士・栄養士の実践知そのものです。
ラオス初の"栄養士養成課程"へ
ラオス保健科学大学はラオスの中で最高レベルの高等教育機関
もう一つの柱は、ラオス保健科学大学での栄養士養成課程の創設です。これはラオスの歴史上、初めて「栄養士」という専門職を制度的に育てる試みであり、国家の未来を左右する大きな動きです。
ラオスでは、なぜ今「栄養士」が必要なのか
現在のラオスでは、病院にも学校にも行政にも、栄養の専門職がいません。そのため、離乳食の指導も、学校給食の運営も、地域の栄養政策も、「誰が中心になるのか」が明確でない現状があります。ここに栄養士が育ち、配置されるようになれば、●病院:栄養管理の質が向上、●学校:食育と給食の体制が強化、●行政:政策の立案・実行・評価が可能、●地域:生活改善の伴走者が誕生、といった大きな効果が期待できます。
ラオス保健科学大学で始まる制度構築支援
日本栄養士会は、●公衆栄養学・臨床栄養学を軸としたカリキュラム設計、●教員育成、●実習体制の構築、●卒業後の配置モデルづくり、など、制度づくりの基盤を担います。これらはすべて、日本の栄養士制度が戦後80年以上かけて積み重ねてきた経験の賜物です。ラオスが自国で栄養改善を進める"自走力"をつけるための核となるのが、この養成課程です。
プロジェクトが実現すれば、ラオスは東南アジアでも数少ない「栄養士制度を備えた国」になります。これは、国の栄養政策の画期的な転換点となるでしょう。
あなたの経験が国境を越えて役に立つ
2年間の本格プロジェクトでは、日本の栄養専門職が関われる場面が数多くあります。母子への食支援、給食運営、栄養教育、地域の食環境づくり、行政栄養、臨床栄養、調査研究など、日本の管理栄養士・栄養士が日々の現場で取り組んでいること、それ自体が、ラオスの未来を支える具体的な力になります。
特に、●住民の行動変容を促すコミュニケーション、●食環境を"仕組み"として整える視点、●データを活用した課題分析、などは、ラオス側が非常に求めている専門性です。プロジェクトを通して、「自分たちが日本でやってきたことが、世界で通用する」という実感を持つ機会があります。
日本の栄養専門職の"日常の実践"こそが、国境を越えた価値を持つ。それを体現するプロジェクトが、今回のラオスとの協働です。「ジャパン・ニュートリションを世界へ」。ラオスの栄養改善の未来は、あなたの手から生まれるかもしれません。



