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【講演レポート #08】開催迫る、2020年東京大会 管理栄養士・栄養士としてどう関わるか?

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯08

講演名:2020年に向けたアスリートへの食提供について
講師:
勝野美江氏(内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局参事官)、玉造洋祐氏(農業生産法人有限会社ユニオンファーム)、濱田納睦氏(北海道士別市教育委員会合宿の里推進室ホストタウン統括監)、松本恵氏(日本大学文理学部体育学科准教授・公認スポーツ栄養士)

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 開催まで2年をきった2020年の東京大会。大会期間中、世界中から日本を訪れる選手や報道陣、観客に対して、どのような食事を提供するのか。また、事前合宿を含めたホストタウン交流を行う自治体が、食の提供で気をつけるべきことは何か?東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局参事官の勝野美江氏を座長に、3人のパネリストが生産者、行政、管理栄養士(公認スポーツ栄養士)の立場から意見を交換しました。

リスク管理された食材の調達、GAP認証を東京大会のレガシーに

 はじめに、座長の勝野美江氏が「2020年に向けた食文化発信~持続可能性に配慮した食提供の動き」と題した講演を行いました。勝野氏は「東京大会はサステナブルでなければならない」と前置きし、東京2020組織員会(組織委)が公表した「持続可能性に配慮した調達コード」について説明しました。調達コードは、2020年東京大会で、組織委が調達する全ての物品・サービスなどに共通して適用する基準や運用方法を定めたものです。
 持続可能性をキーワードに、①どのように供給されているのか、②どこから採り、何を使って作られているのか、③サプライチェーンへの働きかけ、④資源の有効活用 を原則として、以下の基準が示されています。

<全般>法令順守
<労働>児童労働の禁止など
<環境>省エネ、3Rの推進など
<経済>公正な取引慣行、地域経済の活性化など
<人権>差別・ハラスメントの禁止など

 これに基づき、東京大会で飲食として提供される農畜産物は、「GLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)」や「ASIAGAP(アジアギャップ)」、「JGAP(ジェイギャップ)」などのGAP認証(※1)を取得し、安全性や環境の保全、作業者の労働安全に配慮したものを使用するという個別の調達基準が定められています。

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 勝野氏は「GAPをご存知の方は、どれくらいいますか?」と、会場の参加者に問いかけながら、「おそらくまだ知らない方がたくさんいると思いますが、現在、流通の世界では導入が進んでいる認証基準です。今後、管理栄養士や栄養士の皆さんが働いている学校給食や社員食堂などの現場でも、GAP認証によってリスク管理された食料を調達する動きが広がっていくでしょう。私たちは東京大会のレガシー(遺産)として、これらの調達基準が普及していくことを目指しています」と話しました。

※1:GAP(ギャップ) とは、GOOD AGRICULTURAL PRACTICES:農業生産工程管理の略で、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことを指す。

地域の食文化を発信するきっかけに

 東京大会期間中は、選手のほかにも、世界中から報道関係者、観客が東京を訪れ、ボランティアスタッフも膨大な人数になると予想されています。

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 「これらの東京大会に関わる人たちに対して、組織委は今年3月、どこで、どんなふうに飲食を提供するかという方針をまとめた"飲食提供に関する基本戦略"を策定しています」と勝野氏。基本戦略によると、「参加選手が良好なコンディションを維持でき、競技において自己ベストを発揮できる飲食提供を実現すること」を目標とし、以下の取り組みを進めるとしています。

①食品衛生、栄養、持続可能性等への各種配慮事項を網羅した飲食提供に努めることで、
 生産・流通段階を含めた大規模飲食サービスの対応力を図る。
②食品の安全については、食中毒予防対策を講じるとともに、国際標準への整合も含め、
 先進的な取り組みを推進する。
③持続可能性については、生産から消費までの信頼に加え、認証やこれに準ずる取り組みによる
 国際化への対応を促進する。
④日本自らの食文化の良さを改めて理解し、発信するきっかけとする。食文化の多様性に配慮しつつ、
 外国人が受け入れやすい日本の食による「もてなし」を追求する。

 勝野氏は「飲食提供の場では、産地名などの情報を表示することも確認されています。このため、東京大会によって調達コードに合致した農畜水産物の生産を促進すると同時に、日本各地の地域特産物や食文化を発信することもできます」と、期待を込めて話しました。
 さらに、勝野氏は後に続くパネリストの講演に続けるために、国が進める「ホストタウン」事業やGAP認証をクリアした食材活用の事例についてスライドで示し、マイクのバトンを渡しました。

農業課題を解決するGAP認証

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 続いて登壇したのは、有限会社ユニオンファームの玉造洋祐氏です。
 茨城県小美玉市にあるユニオンファームは、2000年9月に設立された農業生産法人で、新規就農者が中心となって有機野菜と米を生産。2001年12月に有機JAS認定、2006年4月にJGAP認証(※2)をそれぞれ取得しています。

 玉造氏は、ユニオンファームがJGAP認証の取得に踏み切った理由について、「かつて栃木県産のイチゴから基準値を超える残留農薬が検出され、イチゴを大量に廃棄した事故がありました。この事故の際、自分たちの農産物は本当に安全なのか?という疑問が浮かび、同様の事故を起こさずに、持続できる農業を行わなければならないと考えるようになりました」と振り返ります。「当時、私たちはすでに有機JAS認定を受けていましたが、それだけでは足りず、我々の課題を解決する仕組みが当時できたばかりのJGAPだったのです」
 さらに、玉造氏は「JGAPを取り入れたもう一つの理由として、労働安全の確保の観点もありました。農業は事故の多い産業で、毎年数百人が作業中に命を落としています。いまGAPは、東京大会の食材の調達基準となっていますが、私たちは東京大会のためだけでなく、農業の課題をクリアするために必要なものだと考えています」と話しました。

※2:JGAP(ジェイギャップ)とは、JAPAN GOOD AGRICULTURAL PRACTICESの略。食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる日本の認証制度。

農業でも作業前の手洗い・消毒を徹底

 ユニオンファームで栽培、出荷している野菜は、茨城県が生産量日本一を誇るみずなのほか、チンゲンサイやしゅんぎく、ほうれんそう、モロヘイヤ、ようさい(空心菜)などですが、これらは毎年行うリスクアセスメント(農産物の安全、労働安全)をもとに、各業務や生産工程を点検し、業務手順や作業環境の改善を行っています。
 具体的には、「例えば、畑での異物混入を防ぐために、野菜の収穫時にプラスチック手袋や帽子を着用したり、専用のコンテナには内袋を使用し、積み重ねた時の異物混入や鮮度劣化を防いだりと、作業環境を整えています」と玉造氏は言います。
 また、野菜の最終カットと計量を行う作業場であるパックハウスを「農作物が商品に変わる場所」と位置づけ、作業前の手洗いや消毒の徹底、室内での飲食・喫煙を禁止していること等をスライドで示しながら説明しました。

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 「昔からの農業のイメージのように、農家のおじさんがタバコを吸いながら袋詰めをしていたら、何が起こるか分かりません。農産物を保管したり取り扱ったりする場所では、誤って画びょうやクリップなどが農産物の袋の中に入らないように、持ち込んではいけないものを決めています。また、収穫に使うハサミや包丁等は使用後に洗浄し、作業者ごとに所定の場所に保管するなど、ルールを定めて運用しています」

「だから良い」の、エビデンスのある農業を目指す

 さらに、玉造氏は「ユニオンファームでは、エビデンスのある農業を目指し、科学的な分析による土づくりや野菜の成分分析を行い、おいしいと感じられる野菜の栽培技術を磨いています」と言います。
 その一つの取り組みが、野菜の成分値による品質評価。これは、野菜を形や大きさなどの"見た目"ではなく、糖度、抗酸化力、ビタミンC、硝酸イオンの4つの指標で、"中身"を見える化し、機能性を評価するものです。分析によると、ユニオンファームが生産したこまつなの場合、全国平均と比較して糖度が高く、抗酸化力、ビタミンCについても高い数値であることが分かりました。また、苦味・えぐみとなる硝酸イオンは、検出限界以下の大変低い数値となっていることがデータから判明しています。

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 結びに、玉造氏は「私たちは、東京大会での食材調達に限らず、消費者が安心して食べられる野菜を作りたいと考えています。さらに、食べることで健康になってもらいたいと願って、野菜の成分分析の取り組みを進めています。管理栄養士・栄養士の皆さんは、なかなか農場に行く機会がないかもしれませんが、ぜひこうした活動を知ってほしいと思います」と、会場に呼びかけました。

ホストタウンでは、地域の人と農産物の活用を

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 続いて、北海道士別市教育委員会合宿の里推進室ホストタウン統括監、濱田納睦氏が「台湾ウエイトリフティングチームの合宿における食の取組について」と題した講演を行いました。
 「ホストタウン」とは、国内の自治体と2020年東京大会に参加する国・地域の住民などが、スポーツ、文化、経済等を通じて交流し、地域の活性化に生かしていくもの。ホストタウンは、相手国・地域の選手や関係者、日本人オリンピアン・パラリンピアンとの交流を行います。
 旭川空港から車で約1時間の北海道北部に位置する士別市は、合宿や大会等で年間延べ2万以上が訪れる「スポーツ合宿の里」です。ホストタウン登録を契機に、2017年7月下旬~8月上旬に行われた国立台湾師範大学ウエイトリフティング部の合宿では、GLOBALG.A.P.認証を取得した農業者が生産したアスパラガスとブロッコリーを使ったメニューを選手に提供しました。

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 濱田氏は「歓迎レセプションメニューとして、アスパラガスの天ぷらとブロッコリーと蟹と卵白のあんかけを提供しました。これらのメニューを食べた監督・選手5人全員が"おいしかった"と答え好評だったが、合宿や遠征の際の食事で一番気をつけていることについては、"カロリーや栄養素"という意見が多かった」と話しました。

公認スポーツ栄養士と地元の栄養士で連携

 今年(平成30(2018)年)2月の台湾チームの合宿では、この意見を反映するため、GAP認証を取得した農業者の生産した食材の提供に加えて、スキージャンプ選手などのサポート実績を持つ公認スポーツ栄養士の蜂谷愛氏を招へいし、提供メニューの監修等の栄養指導も取り入れました。また、メニューに関しては地元の給食センターの栄養士や宿舎の調理担当者と連携し、食生活改善推進員が考案したメニューも取り入れました。

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 「蜂谷氏の提案によって、選手が体格や体調に合わせて食事の量を調整できるブュッフェ形式にしました。また、給食センターの献立や、食生活改善推進員さんが考案した野菜たっぷりレシピを積極的に取り入れていただくなど、食材だけでなく地元の人的資源の活用にもつながりました」

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 こうした取り組みの結果、合宿終了後に行った選手たちへのアンケート調査では、「GLOBALG.A.P.など低農薬で安全安心な士別産の食材をどう思いますか」の質問に、93%が「人に薦めたい」と回答。さらに、「今回はスポーツ栄養の専門家の指導による食事を提供しました。この取組についてどう思いますか」の問いに対して、「必要」、「あると安心する」という回答が94%を占めました。
 濱田氏は、「安全安心な食と、スポーツ栄養に基づく食事の提供の双方で高評価を得ることができました」とまとめ、地元の合宿施設と栄養士との連携が、合宿施設でのスポーツ栄養をもとにした食事提供にとどまらず、地域住民の健康づくりに展開できる可能性があると示唆しました。
 ホストタウンでのこのような活動は、生産者を含めた安全安心な食材の普及や、スポーツ栄養の情報を地域における"フードレガシー(食の遺産)"として未来に継承していくことにつながると期待されています。

選手は慣れた食環境を優先する

 最後に登壇したパネリストの日本大学文理学部体育学科准教授の松本恵氏は、公認スポーツ栄養士の立場から、アスリートの試合期間中の「食」の特徴と、アスリートへの食の教育・サステナビリティへの取り組みについて解説しました。

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まず、松本氏は「試合中のアスリートにとって食事は楽しみでありますが、まずは競技時間に合わせたコンディショニングを優先し、平常時のルーティンを可能にする食環境が求められます」と前置きしました。
 そこで、平成24(2012)年ロンドン大会では、地域別に4つのコーナーがあり、ハラルコーナーやスポンサー企業の提供コーナー、開催国イギリス料理の提供コーナーがあったことを紹介。そのうえで、アスリートが試合期間中のフードサービスに求めることとして「アレルギー対応」「宗教上の配慮」「ベジタリアン対応」「暑熱対策」「リカバリー」「減量などのアスリートの状況にあった食の提供」「トレンドの導入」をあげました。

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 さらに、松本氏は、料理の種類別に必要な栄養素や選手の摂取のタイミングについて、以下のように説明しました。

■ごはん、めん、パン等
 糖質補給で大会期間中の練習や試合の繰り返しによるリカバリーに必要
■肉の煮込み料理、肉・魚のグリル等
 たんぱく質補給で筋肉の補修、低脂肪食・高脂肪食を用意し種目や体格に応じた調整も必要
■サラダ、温野菜等
 長期滞在中のコンディショニングのためにビタミン・ミネラル・食物繊維を補給
■ヨーグルト、チーズ、牛乳
 リカバリー・コンディショニングに補食としても活用
■果物、果物ジュース
 生・カット・ジュースといった様々な形態の果物があるほうが利用しやすい
■ドリンク類、ナッツ類、調味料類
 ナッツ類や調味料類にもアレルギー表示を含めた栄養表示があると選択しやすい

 「栄養表示については、世界各国の選手の食事選択の際に重要な情報源となります。言語のほかにも、一目でわかるイラスト等を使用して掲示する必要があります」と松本氏。さらに、「もう一つ、食材への配慮として重要なことがあります。それは、ドーピングに注意することです」と話します。
 松本氏は、中国産・メキシコ産の牛肉中のクレンブテロール(成長促進剤)混入により、大会選手がドーピング検査で陽性反応が出てしまった問題を例に挙げて、「各国の選手が安心して摂取できる、ドーピング禁止薬物混入の危険がない食材の提供を徹底する必要があります」と訴えました。
 そして、大会前にメニューや調理方法の要望をあらかじめ入手しておき、メニュー・献立を事前に公開して選手が宗教上禁忌となっている食材や食物アレルギーの対策をできるようにすることや、食材・メニューの成分表示をする等、事前のコミュニケーションが重要だとアドバイスしました。

アスリートへの持続可能な食教育

 次に、松本氏は、アスリートの食事の特徴を、サステナビリティの面から解説しました。
 アスリートは、トレーニングで消費したエネルギーを補い筋肉量を維持するため、食事量が増加します。例えば、柔道100kg超級の選手の1食当たりの栄養素摂取量は、エネルギー2,500kcal、たんぱく質129g、炭水化物246.7g、脂質68.2g必要となることがあります。特に、たんぱく質は一般の人と比べて、非常に多い数値となることを示しました。

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 松本氏は、「アスリートは、海外遠征等で頻繁に航空機や車を使うことで化石燃料を消費して移動していますし、トレーニングによって食事量が増加し、筋量増加・筋損傷からの回復のためにたんぱく質摂取量も増大します。ですので、サステナビリティの観点から、アスリートの摂取するたんぱく質源を温室ガス低排泄量の食材にする等、管理栄養士・栄養士やフードサービスの企業が協力して、アスリートへの食教育とともに環境作りに役立てていくことが必要です」と提案します。
 「アスリートは自身のパフォーマンスのために食に関心が高く、地域でのイベントに貢献することで、地域からアスリートへの応援も得られます。アスリートへの食教育は、地域やジュニアアスリートへの波及も期待できます」
 そして先進事例として、コロラド大学で行っている、アスリートのためのサステナビリティ教育農場の運営を紹介しました。ここでは、アスリート自身が食材を農家に提供してもらいに直接出向いたり、農場のコテージで地産地消やオーガニック、ベジタリアンフードの調理や試食イベントを開催したりして、地域に貢献しています。

 最後に松本氏は、こうまとめました。
 「管理栄養士・栄養士の皆さんには、まずアスリートの食の特徴を知っていただきたいです。アスリートにはサステナビリティの理念について教育する必要がありますし、皆さんと一緒にアスリートへの教育、そして地域との連携を進めていきたいと思います」

ホストタウンで栄養士も率先して関わろう

 パネリストの各講演を終えた後、座長の勝野氏の進行で、玉造氏、濱田氏、松本氏のディスカッションが行われました。

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勝野 濱田さんの発表にもありましたが、士別市では、ホストタウンとして選手と地域との交流を進めていますね。

濱田 はい、台湾ウエイトリフティングチームの士別市での合宿のほかに、士別市の高校生が修学旅行で台湾に行き、ウエイトリフティングの強豪校と交流しています。士別市は、1989年のはまなす国体でウエイトリフティングの会場となったのをきかっけに、同競技が盛んになりました。雪が珍しい台湾の選手たちに、2月の合宿では雪国の文化を体験してもらいました。

勝野 生産者さんのお話を聞いたり、そば打ち体験なども行ったりしているそうですね。他のホストタウンの事例としては、鹿児島県鹿屋市がタイのバレーボールチームの合宿を受け入れ、鹿児島県のGAP認証を受けたかぼちゃを使ったメニューをふるまうなどの取り組みをしています。玉造さん、現在、生産者としてアスリートとの交流はありますか?

玉造 現在の食材供給の現場で接点はないのですが、今後は持てると良いと思っています。

勝野 松本さん、公認スポーツ栄養士の立場から生産者に求めることはありますか?

松本 玉造さんが講演でお話しされた野菜の成分値による品質評価ですが、アスリートは決められたカロリーの中で多くのビタミンや微量栄養素を摂取することがとても大切です。先ほど、平均値と比べて抗酸化力が高い野菜の紹介をされましたが、これは選手にとって重要な存在です。栄養価の高い野菜は、一般消費者の私たちも使いたいですが、アスリートの現場ではより必要とされるものです。

東京大会には栄養価の高い旬の農産物を

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勝野 士別市で冬の野菜の供給はどうされているのですか?

濱田 2月の台湾ウエイトリフティングチームの合宿の際は、地元では野菜が収穫できない時期でした。事前にいろいろと検討して、ジャガイモ、タマネギ、ブロッコリーを出せる状態にするために、ジャガイモ、タマネギは収穫した後に低温貯蔵、ブロッコリーは調理しやすいように小房にわけて、細胞を傷つけずに冷凍させるCAS(キャス:Cells Alive System)冷凍をしておき、調理に使いました。

勝野 気候の影響もありますし、決まった時期に決まった野菜を出荷するのは大変ですよね。調達基準を満たす農産物を提供するという意味で難しさはありますか?

玉造 農産物には旬があります。旬の時期のものは作りやすいですし、量もたくさん収穫できます。また、旬の時期は抗酸化力も高くなることがわかっています。ですから、アスリートの方には旬の産地の食材を提供することが重要だと思います。しかし近年、栽培や収穫を難しくしているのが、暖かい冬や寒い夏、例年にない降雨量といった異常気象です。本来は収穫できる時期なのに、今年は採れなかったという事態もあり得えます。こうした異常気象が2020年に起こらないことを祈りたいです。

勝野 東京大会で飲食提供される農畜水産物が、調達基準を満たす必要があるということをまだ知らない方もたくさんいると思います。さらなる普及のためにで、学校給食や社員食堂、レストランなどで東京大会の調達基準を満たす食材を使ってもらうことが大切だと考えています。まず多くの人にGAPという仕組みを知ってもらい、それが生産現場に伝わることでGAP認証を取得するモチベーションにつなげてもらいたいと思います。

玉造 GAP認証を取得した農産物の流通量はまだ全体量が少ない現状で、消費者がGAP認証食材を主体的に選ぶ段階にまで到達していません。ですから、生産者がGAP認証を取得することで優先的な購買力につながるのか不安があります。なぜGAP認証が必要なのか、望まれているのか、という根本を考えていきたいです。

勝野 生産者と管理栄養士・栄養士、アスリートが双方向でコミュニケーションすることが必要ですね。

松本 アスリートはたくさん食べ、動き、消費する人で、社会的に影響力のある立場の人たちでもあります。だからこそ、彼らがサステナブルを意識することが必要ですし、それを支える公認スポーツ栄養士も勉強をして、選手たちを教育していかなればならないと思います。アスリートを中心に多くの人々を巻き込んで、社会貢献に取り組んでいきたいです。

勝野 ホストタウンには現在、全国320の地域が登録し(平成30(2018)年6月29日現在)、世界中の国と地域の選手たちが日本で合宿を始めています。生魚を使った寿司等は、試合直前では食べられないメニューでしょうが、今行われている合宿などでは選手たちが食べてみたい日本食の一つになっています。日本の食文化を楽しむ、また発信する機会だと思って、ぜひ地域の食材や相手国に受け入れられる日本のメニューを取り入れてほしいですね。各地域で、アスリート、栄養士、生産者、行政がさまざまな交流を深めていただくことを期待しています。

講師プロフィール:

勝野美江氏(内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局参事官)
博士(生涯発達科学)。食育基本法制定時に農林水産省で食育を担当。食事バランスガイドの策定、教育ファームの立ち上げ等に携わる。文部科学省科学技術政策研究所を経て、農林水産省で介護食品の普及、途上国の栄養改善の取り組み等のプロジェクトに携わり、2016年より現職。

玉造洋祐氏(農業生産法人有限会社ユニオンファーム)
筑波大学第一学群社会学類卒業。アイアグリ(株)を経て、2007年より(有)ユニオンファーム代表取締役社長。2013年より(株)いばらき農流研代表取締役を兼務。

濱田納睦氏(北海道士別市教育委員会合宿の里推進室ホストタウン統括監)
北海道大学工学部卒業。北海道庁入庁後11年間にわたり農政部の用地買収補償業務に携わる。2015年よりスポーツ行政に携わり、2017年に士別市教育委員会に派遣となり、現職。

松本恵氏(日本大学文理学部体育学科准教授・公認スポーツ栄養士)
北海道札幌市生まれ。藤女子大学助手、北海道大学特任助教、サウスオーストラリア大学客員研究員を経て2011年春より現職。農学博士・公認スポーツ栄養士。日本大学にて冬期スポーツや陸上・柔道・トライアスロン選手の栄養サポートに携わる。ソチオリンピックマルチサポートハウスミール担当。2013年より日本スポーツ栄養学会理事。

講演資料ダウンロード
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講演レポート#08-1 2020年に向けた食文化発信~持続可能性に配慮した食提供の動き~
講演レポート#08-2 農業に"競争力"を 新農創造
講演レポート#08-3 台湾ウエイトリフテイングチームの合宿における食の取組について
講演レポート#08-4 2020年に向けたアスリートの食事提供について

講演資料につきましては、無断での複写・転用・転載はご遠慮ください。
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次回講演レポートは、9月11日(火)に掲載を予定しています。

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