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【講演レポート #09】ノウハウ満載!今日から使える、子育て期の食、保護者支援

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯09

講演名:子どもの食と栄養~保護者支援のポイント~
講師:
上田玲子氏(帝京科学大学教育人間科学部幼児保育学科教授・学科長)

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 "待機児童"という言葉をニュースで頻繁に聞くほど保育所のニーズが急増しており、幼稚園よりも保育所や認定こども園に通う子どもが増えています。それにより、園で給食を食べる乳幼児が増え、乳幼児にかかわる管理栄養士・栄養士も多く必要とされています。その子どもたちの保護者を支援することも、管理栄養士・栄養士の役割の一つ。小児栄養学・小児保健学が専門の上田玲子氏が、「子どもの食と栄養」について保護者支援の視点を加えて解説しました。

箸は何歳で使えるようになればいい?

 今年(平成30年(2018)年)4月1日より、新しい「保育所保育指針」が施行されました。10年ぶりの大きな改定で、小さいうちから保育所への入所を希望する子どもの数が増えたことにより、乳児保育と1~3歳未満児保育の内容が充実したのが今改定の1つのポイントです。上田氏はこの改定を受けて、「保育所でも離乳食講座や給食の試食会をして保護者や地域のお母さんたちにも食育をすることが推進されています。特に仕事を持つ保護者は忙しく、子どもの成長の変化のスピードに追いついていけないことが多い。だからこそ、保護者支援が必要なのです」と、冒頭でこの講演の趣旨を述べました。
 たとえば、保護者から「お箸は何歳から使ったらよいですか?」と質問された場合。上田氏は会場で、前方の席に座っていた管理栄養士・栄養士5~6人に回答を求めました。「3歳」、「年中くらい?」、「5歳」。答えはさまざま。上田氏は、「保育所では3歳からお箸の練習をするところが多いのですが、歯科医師の先生方から『年齢ではなくて、その子の機能で見てほしい。鉛筆で○や△が描けるようになった頃がちょうどいい』と言われました。文科省では4~6歳くらいで鉛筆が持てるようになると示しています。つまり、お母さんたちにもそれくらいの年齢の幅を示して答えるといいでしょう」と回答しました。上田氏のあたたかみのある話し方に、会場が和んでいきます。

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離乳食では鉄欠乏性貧血に要注意

 続いて上田氏は、母乳栄養の利点を、①消化吸収がよく代謝への負担が少ない、②感染防御因子を含む、③母子相互作用を高め育児に自信がつく、④乳幼児突然死症候群の発症が少ない、⑤産後の母体の回復を早める、と5点を挙げたうえで、「では、おっぱい(母乳)だけで元気に生きられるのはいつまででしょうか?」と質問を投げました。こちらも会場の参加者5~6人に回答を求めます。
 「初乳を100%とすると、母乳に含まれるたんぱく質の量は300日で50%程度に減少します。鉄やナトリウムもほぼ半減。一方、増えるのが乳糖。つまり、エネルギーはとれても低栄養な"エンプティカロリー"になります。そして、たんぱく質と鉄が減ると発症するのが鉄欠乏性貧血です。生後5か月頃から離乳食を始める理由の一つには、母乳では不足してくる栄養素の摂取にあります。乳汁:離乳食のエネルギー配分がはじめは9:1でスタートさせるのに対し、生後9か月では4:6になり逆転します。この時点で3回食にして離乳食でしっかり栄養素を摂取しないと、鉄欠乏性貧血を発症するリスクが高まります」

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 上田氏は離乳食について生後5-6か月のゴックン期、7-8か月のモグモグ期、9-11か月のカミカミ期、12-18か月のパクパク期に分けて、舌の動きや歯の成長といった口腔内環境や手指の機能の発達、それに応じた食形態を詳しく解説しました。そのうえで、離乳食に一般的に利用される食品には鉄含有量が少ないものばかりで、体内への吸収率も低いことを挙げ、離乳食にふさわしい鉄が豊富なレシピを現場の管理栄養士・栄養士に数多く考案し、保護者に紹介してほしいと訴えました。

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 鉄が不足した場合の悪影響として、乳幼児のヘモグロビンの値が10.5g/dL以下の状態で3か月以上持続すると、精神運動発達遅延が見られるようになります。発語や動きが少し遅れるため、保育士が「ほかの子と違う」と気がつくケースが多いと言われています。上田氏は、「異変が見逃されてさらに3か月経過すると、その子の鉄欠乏性貧血が改善されても、精神運動発達遅延は持続され、人間では13歳まで取り戻せないという報告もあります。そのうえ13歳以上で取り戻せるかは不明とされています」と注意を呼びかけました。
 「鉄欠乏性貧血の予防のために、私は鉄鍋での調理を勧めています。ひじきの例でも分かるように、吸収しやすい鉄が鉄鍋使用で供給できるからです。できるだけ表面積が広いものがいいですね。高齢者や妊婦さんにもお勧めします」

保護者が納得できるアドバイスを

 子育て中の母親が食事について悩むことの多い"好き嫌い"について、上田氏はデータを使ってアドバイスの一例を示しました。
 「嫌いな食材は好奇心が芽生えたり、大人や友達が食べているのを見たのを機に食べられるようになります。にんじん、玉ねぎ、ピーマン、納豆が食べられるようになった平均年齢は10.2歳。同い年の子の80%が食べられるようになる年齢は15歳で、第二次成長期にも好き嫌いを克服できるタイミングがあります。保護者にもこうしたデータを伝えて、気長に見守るようにお伝えしましょう」

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 また、保育所での間食は管理栄養士・栄養士がかかわっていることから、果物、乳製品、穀類、いも類などを中心に補食として適切なものが提供されていることが多いのですが、上田氏はお迎え後の間食について問題提起をしました。
 「保育所でおやつを食べたにもかかわらず、お迎えの後はお母さんに甘えたくて『お菓子を買って!』、『お菓子食べたい~』と訴える子どもが多くいます。そのような場合は、お母さんが『今日も1日よく頑張ったね』とまずは子どもの気持ちを受け止めてあげることが大切です。お子さんの気持ちと向き合わずにお菓子だけ買って与えると心が満たされないので量ばかり増えがちです。気持ちに向き合いそれでもお菓子を欲しがる場合には、スティックチョコ菓子なら2本まで、ビスケットなら1枚までと、管理栄養士・栄養士が夕飯に影響しない量の目安を具体的に教えることが大切。多くのお母さんたちは守ってくれますよ」

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 最後に上田氏は、時間栄養学の観点から子どもにとっての「早寝早起き朝ごはん」の利点を解説。保護者からは、「子どもを何時に寝かせたらいいか?」という質問がよく聞かれます。
 「早く寝てもらうためには、早く起きて親子で朝日を浴びましょう。そうするとホルモンの働きで14時間後には眠気を感じるようになります。朝日を浴びて脳を目覚めさせ、朝ごはんで体を目覚めさせ、夜は早く眠くなるといった生活リズムが健全な成長につながります。また、保護者の方々は子育ての時期は忙しく睡眠不足になりがちです。時間管理の方法をお伝えしてお母さんお父さんも時間に余裕を持っていただきこの時期をより楽しんでもらえる言葉かけができると最高ですね」
 保育士や幼稚園教諭に比べると、管理栄養士・栄養士は保護者と接する機会はあまり多くありません。しかし、子育て中の保護者に食の悩みは多くあります。上田氏のアドバイスを参考にして、子どもへの食育だけでなく、保護者支援もできる管理栄養士・栄養士が増えることが期待されます。

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講師プロフィール:上田玲子氏(帝京科学大学教育人間科学部幼児保育学科教授・学科長)
女子栄養大学卒業、国立公衆衛生院専門課程修了、女子栄養大学大学院後期博士課程修了。管理栄養士、栄養学博士、公衆衛生学修士。東洋英和女学院大学にて非常勤講師、栄養コーチングや食事調査等を行う(株)トランスコウプ総研取締役も務める。

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次回講演レポートは、9月11日(火)に掲載を予定しています。

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