公共社団法人日本栄養士会 公共社団法人日本栄養士会

ログイン
   

ログインについて

パスワードを忘れた方

ようこそ
 さん

  1. Home
  2. 特集
  3. 【講演レポート #05】AI時代の到来、 現場に求められる"共感力"とは?

【講演レポート #05】AI時代の到来、 現場に求められる"共感力"とは?

講演名:メインシンポジウム「Society5.0と栄養業務―AIを活用した管理栄養士・栄養士の未来」
座長:中村丁次氏((公社)日本栄養士会会長)、シンポジスト:佐藤聡氏(一般社団法人日本ディープラーニング協会理事/connectome.design(株)代表取締役社長)、三木竜介氏(神戸市保健福祉局健康部健康政策課健康創造担当課長)

2019082801_01.jpg

 AI(Artificial Intelligence)とは、人工知能のこと。飯島勝矢氏の特別講演(講演レポート#01)では、AIがより発展した2045年頃になると、現在ある職業の約4割はAI化されるという予測があるとの指摘がありました。しかし、管理栄養士・栄養士の仕事にAIがどのようにかかわってくるのかを、今の段階で想像できる人はいるでしょうか? 座長を務めた中村丁次会長は、「AIをテーマに、管理栄養士・栄養士の業務を議論するのは今回が初めて。画期的な企画です」と述べて、メインシンポジウムをスタートさせました。

伸びるか、衰退するかの分岐点

 シンポジウムのタイトルにある「Society5.0」とは、国がめざすべき未来の社会の姿として掲げられています。
 Society1.0=狩猟社会、Society2.0=農耕社会、Society3.0=工業社会、Society4.0=情報社会と発展してきましたが、これまでの情報社会(Society4.0)では、知識や情報がうまく共有されずに分野横断的な連携が不十分であったり、年齢や障害によって労働や行動範囲に制約があったりするなど、いまだに多くの課題や困難が存在しているのが現状です。
 Society5.0で実現する社会では、IoT(Internet of Things)ですべての人とモノがつながり、人工知能(AI)の発展によって、少子高齢化や地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服され、希望が持てる社会となり、一人ひとりが快適で活躍できるようになるとされています。
 中村会長は、「すでに画像認識のAI技術を用いて、食事の写真から自動的に栄養計算がなされるアプリが開発されています。私たち管理栄養士の業務の核である栄養診断もAIが行うようになるのかもしれません」と、問題意識を示しました。

2019082801_02.jpg

 というのも、あるビジネス雑誌で、2040年の医療系職種の需要予想という特集があり、管理栄養士は「需要が伸びる職種」の9位にランクインしているものの、「需要が減る職種」の8位にも登場しているという記事を紹介し、「これは、管理栄養士・栄養士がこれから伸びる職業になるのか、衰退する職業になるのか、今まさに分岐点に立っていると考えられる」と指摘。そこで、中村会長は「栄養管理の必要性が高まれば、管理栄養士・栄養士の需要は伸びるはずなので、私たちは今後、AIをどうにか味方にして活用していかなければならないでしょう」と、AIをテーマにしたこのシンポジウムの企画の意図を述べました。
 中村会長は、AIを味方にするうえで、まずはその特徴を理解しなければならないと話し、AIを"頑固な専門家"と例えました。
 「AIは、自分から課題や問題点を見つけない、やるべき作業や条件を設定しなければ働かない、特定の課題だけを解決する、話の流れや行間を読むことができない、人間との情動的な共感を得ることができない」などとその特徴を挙げ、「私たちがこのAIにどのように対応したらよいのかを、今日は皆で考えていきたい」と、シンポジストの2人に講演を託しました。

AI専門管理栄養士が必要⁉

 AIの専門家としてシンポジスト1人目に登壇したのは、(一社)ディープラーニング協会理事で、connectome.design(株)代表取締役社長の佐藤聡氏です。「経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会であるSociety5.0」というタイトルで、AI関連技術の発展の歴史と、今後の開発の方向性について、管理栄養士・栄養士向けに解説しました。

2019082801_03.jpg

 AI技術の発展によって、管理栄養士は伸びていくのか、衰退するのか―。中村会長の問題提起にもあったように、管理栄養士・栄養士に限らず「自分の仕事は、そのうちAIに取って代わられるのではないか?」と危機感や不安を感じている人は少なくありません。
 その懸念について、佐藤氏は、現在のAIの位置を図に示し、「現段階のAIは、ある仕事を訓練して、訓練して、やっとできるようになるような特化型であり、汎用的な仕事はまだできません。AIが得意な"特化型"の部分を人間が仕事の一部にうまく使っていけばいいのです」と述べました。
 また、中村会長が挙げたAIの特徴に同意し、"共感"はAIがもっともできないことの一つであると話しました。その例として、AIは栄養バランスが整った献立を何通りも学習して、完璧な献立を作成することができるようになるものの、「今日はちょっと栄養バランスを崩してでも、いつもと違うメニューを出してあげたい」というような、食べる相手の気持ちに寄り添って"ちょっと栄養バランスを崩してでも"と想像力を働かせた献立を作成することは、現段階のAIには不可能であると説明しました。
 AIの特徴である"特化型"の部分で、急速な発展を遂げている技術の一つが、「ディープラーニング(深層学習)」です。人間の脳神経回路のようなニューラルネットワークを何層にもしたもので、膨大なデータから的確な判断をする働きをします。
 対談をしている2人の顔の表情を認識して「緊張状態が○%あったか」を算出したり、気温や湿度などさまざまなデータからある飲料がどのくらい売れるのかを予測するなど、さまざまな場面ですでに利用され始めています。ヘルスケア分野では、がんの診断も部位によってはAIのほうが医師よりも優れた結果を出せるといいます。
 佐藤氏は、「データありきの技術のため、元となるデータが良くなければ、AIも良い答えを出すことはできません。適切なデータを集めてくるという作業は、管理栄養士・栄養士の皆さんの仕事においても同じく重要ではないでしょうか?」と問いかけ、「人とAIがお互いに得意なところを分業していけば、AIを味方にすることは可能です」と述べました。
 ただし、問題なのは、AIの技術開発を担う人材の不足です。「2017年グローバル人工知能人材白書」によると、世界で約70万人の技術者が不足しているというのです。「AIを作る側の技術者も、使いこなせる人も、圧倒的に足りないのが現状」と、佐藤氏は指摘します。

2019082801_04.jpg

しかし、「前向きに考えれば、世界で最初に超高齢社会を迎えている日本が、ヘルスケア分野においてもAIを積極的に活用して、豊かに生きられる社会を率先して構築すればよいと考えられます。それには、分野融合が必須。AIに特定の専門職の知識、すなわち管理栄養士・栄養士の匠の技を身につけさせる。そのような技術を開発していければ、世界でも非常に喜ばれるでしょう」と佐藤氏は話し、管理栄養士・栄養士も技術開発に携わり、"AIを使いこなせる側"になるように提案しました。
 佐藤氏の発表を聞いた座長の中村会長は、「専門分野別の人材育成の一つに、AI専門管理栄養士というカリキュラムを作ってもいいかもしれませんね」と、会場に呼びかけました。

AI時代でも専門職が不可欠なのは?

 今回の全国栄養士大会の会場となった神戸市は、今年(2019年)春から、AIを活用した市民サービスを始めています。そこで、シンポジスト2人目には、神戸市保健福祉局健康部健康政策課健康創造担当課長で医師の三木竜介氏が登壇し、「Society5.0にむけた基盤づくり―市民の健康データの利活用を考える―」と題して講演しました。
 「誰もが健康になれるまち 健康創造都市KOBE」を掲げる神戸市がスタートさせたのは、市民PHRシステム「MY CONDITION KOBE」という取り組みです。PHR(Personal Health Record)は個人の健康情報で、IT企業と共同して、スマートフォン用の健康アプリを開発しました。

2019082801_05.jpg

 市が保有している健診などの結果に加えて、市民がそれぞれこのアプリに日々の食事や服薬の状況、歩数などを入力すると、自分の健康状態に応じたアドバイスをもらうことができ、また、健康ポイントを貯めて特典が受けられるようになっています。一方、神戸市は、入力されたデータを匿名化して、倫理審査を通したうえで学術機関に提供し、新たなエビデンスを確立させて、次なる健康施策につなげていきます。
 三木氏自身も使いこなしており、先ほど食べた昼食の写真をこのアプリにアップロードすると、食事の内容や量から推測して、「夕ご飯はこういうものを食べたらいいのでは?」という提案をしてくれたり、歩いて通勤するようにすると歩数がカウントされて健康ポイントが貯めやすくなる、という仕組みを解説しました。
 「従来、市が開催してきた健康講座などは、健康に関心が高い人にしか参加してもらえない状況でした。無関心層にも届き、自然と行動変容をうながす仕組みにするために、アプリで睡眠や歩数の状況を自動的に集め、画像認証で食事を評価するなど、面倒な手入力をさせずに済むようにAIの技術を活用しています」

2019082801_06.jpg

 現在のターゲット層は健康維持と未病の早期介入を目的とした40~60歳代の世代で、今年度中に1~2万人の参加をめざしているとのこと。データから、市民にどのような行動変容が起き始めているかを抽出し、効果を検証していくといいます。
 このようにAIを活用した健康施策が始まっているものの、三木氏は「今後の人口減少で人手不足となる状況でも、AIではなく専門職を充てないとならないのは、データを拾えない乳幼児と、データを集めにくいご高齢の方たちでしょう」と分析します。
「子どもが見た目でワクワクするような食事を用意したり、高齢者の持病や生活力に配慮したメニューを考えるなど、五感に訴えたり共感を与えたりするような創造性の高いスキルは、AIが参入した時代であっても、管理栄養士・栄養士の皆さんに求められ続ける部分だと思います」と、会場の参加者に期待を寄せました。

技術開発に携わり、新サービスを生み出そう

2019082801_07.jpg

 シンポジスト2人の発表後は、座長の中村会長を交えて意見交換が行われました(以下、敬称略)。
中村AIの技術について、お二人にわかりやすく解説していただき、会場にいる管理栄養士・栄養士も理解が進んだことと思います。現状を考えると、AIの技術者と連携をして、新しい技術を共に作っていくという作業が必要になっている、ということですね?
佐藤:そうですね。もともと私が主にかかわっているのは製造業でして、熟練の職人さんと何をどうすればよいかを話し合っています。管理栄養士・栄養士の皆さんの仕事内容も、何がどう大変なのか、何を改善できたらいいのか、私たち技術者にはわかりません。まずは、業務内容をすべて提示していただくことから始まります。
三木AIを敵か味方かと考えるのではなく、"ただの道具の一つ"ととらえて、使いこなすのが当然と認識することが、まずは大切です。自分なりのサービスをAIの技術を使ってどう作り上げるかを考えていくことですね。
中村:画像認識では、どうやって栄養計算をしているのでしょう?
佐藤:開発に携わっていないので推測になりますが、卵焼きにしても、カレーライスにしても、たくさんの料理写真を用意します。これは卵焼き、これは白いご飯、これはポークカレー、これはシーフードカレー...というように大雑把なメニューを推定します。すると、データベースからカレーにはこういうものが含まれている、ということがわかります。その知識を利用して、実際に使われている具材を推定します。さらに、一緒に写っている箸や器の大きさと具材の量を比較して、ご飯などの量を推測し、栄養価を算出していくのだと思います。
三木:画像認識からの栄養計算は、これが絶対的な正解である、という答えを出すものではありません。そういう意味では、神経質な人には納得がいかない部分があるかもしれませんね。先ほども話しましたが、AIは生活を便利にする単なる道具です。それ以上でも、それ以下でもありません。

2019082701_08.jpg

中村:栄養の専門職がSociety5.0でも活躍できるように、お二人からエールをいただけますでしょうか?
佐藤:私はAIとは蜃気楼のようなものだと思っていまして、追いかけても追いかけてもとらえきれないが、その途中で新たな何かが発見・発明される、という印象です。新たなAI技術を生み出すには分野融合が必須ですので、栄養を専門分野とする方たちも、ご興味のある方はAIの勉強会などにぜひ参加してください。
三木:日々、現場で奮闘されている管理栄養士・栄養士の皆さんはきっといいサービスを構築できると思いますので、異分野の人との接点をもって、話し合い、アイデアを生み出し、新たな道具として使いこなしてほしいですね。
中村:ありがとうございました。私は冒頭で、管理栄養士の業務は衰退していくのかもしれないと危機感を示しました。しかし、そもそも栄養業務の目的は何なのかを、皆さん、考えてみてください。人の栄養状態を改善し、健康状態を維持・増進し、疾病の憎悪化防止をすること。これはAIやロボットだけでできるわけがありません。栄養改善へのプロセスは、科学的根拠をもとに適正な情報を対象者に与えて、確実な行動変容につなげることです。この確実な行動変容に欠かせないのが、AIが苦手とする"共感"です。人は、信頼できる管理栄養士・栄養士からわかりやすい話を聞いたり、励まされたり、大丈夫ですよと言ってもらえたり、褒められたりして、心と脳が揺さぶられ、「やっぱりそうだよね」と納得できたときに、ようやく動き出せるのです。人の心を動かすコメントをAIが出せると思いますか? 皆さんの豊かな感性なら、エビデンスもおもしろく語れるはずなんです。人間だからこそ持つ、共感というすばらしい能力を、どんな時代でも管理栄養士・栄養士は持ち続けて、活かしていく必要があると思います。

講師プロフィール:
中村丁次氏((公社)日本栄養士会会長)
徳島大学医学部栄養学科卒業。聖マリアンナ医科大学病院、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院に勤務し、栄養部部長を歴任。2003年より神奈川県立保健福祉大学教授。栄養学科長、保健福祉学部長を経て、2011年より同大学学長。2018年より(公社)日本栄養士会会長。医学博士。

佐藤聡氏(一般社団法人日本ディープラーニング協会理事/connectome.design(株))
1989年、東京理科大学工学部機械工学科卒業。人口知能による自動演奏を実現すべく、電子楽器メーカー入社。その後、ソフトウエア会社、起業を経て、人工知能ベンチャーの操業メンバーとして参加。現在は、人工知能関連技術を活用した新規事業開発のコンサルティングを手がける。

三木竜介氏(神戸市保健福祉局健康部健康政策課健康創造担当課長)
2002年、九州大学医学部卒業。以降16年間、地域の中核病院にて循環器、救急、集中治療を専門として臨床に従事。2016年、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻に進学し、公衆衛生および疫学を専攻。2018年、社会健康医学系修士取得。同年4月より現職。

講演資料ダウンロード
日本栄養士会会員の方は、当日の講演講演をダウンロードいただけます。
講演レポート#5-1 Society 5 と栄養業務-AIを活用した管理栄養士 ・ 栄養士の未来
講演レポート#5-2 経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会である Society5.0 ディープラーニング:深層学習
講演レポート#5-3 Society5.0にむけた基盤づくり− 市民の健康データの利活用を考える−
講演資料につきましては、無断での複写・転用・転載はご遠慮ください。
また、他講演の資料や日本栄養士会の資料は「日本栄養士会の資料」ページからダウンロードいただけます。

次回講演レポートは、9月5日(木)に掲載を予定しています。

PR賛助会員からのお知らせ