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【講演レポート #08】カルテ記録に必要な管理栄養士ならではの気づき

「2019年度全国栄養士大会」講演レポート ♯08

講演名:カルテ記録のスキルアップ~他職種から見られています。あなたの記録~
講師:須永将広氏(国立病院機構渋川医療センター栄養管理室長)

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専門職としての思考と行為を証明し、他職種と連携するために欠かせないツールであるカルテ記録。日頃から、他職種に"見られている"という意識を持って記録しているでしょうか?自分のカルテの書き方に自信がある管理栄養士はどのくらいいるでしょうか? 国立病院機構で急性期医療の一翼を担っている須永将広氏が、カルテ記録の基礎編と演習を担当しました。ここでは、基礎編をレポートします。

「管理栄養士の記録は陳腐」という厳しい指摘

 「昨年の夏、厚生労働省の担当官より、『他職種から管理栄養士のカルテの記録が陳腐だという指摘がある。カルテの記載についてしっかり指導してほしい』と注意喚起がありました」
 須永氏の講演は、医療機関勤務の管理栄養士には耳の痛い報告から始まりました。カルテ記録が疎かになると、看護師から「この程度の内容なら、自分でも"食事"の説明はできる」と思われてしまう恐れがあると言います。
 「『栄養指導』と『食事』の指導は違うのに、他職種からは同じととらえられていることに、皆さんに危機意識を持ってほしいと思います。『栄養指導を管理栄養士にお願いしよう』と期待されるのか、『看護師の私たちで十分だよね』と思われてしまうのか、カルテの記録は重要な分岐点なのです」と、須永氏は問題意識を共有しました。
 平成30年度の「管理栄養士・栄養士の栄養学教育モデル・コア・カリキュラム」の見直しで、学修目標の項目として「栄養診断の意義、目的、用語とその定義および記載方法(PES)を説明できる」こと、「栄養管理の経過について評価し、栄養管理プロセス(栄養ケアプロセス;Nutrition Care Process ; NCP)に基づいて記録できる」ことが明記されました。
 須永氏は、「学生たちがPESを学んできているということを、まず現場の管理栄養士・栄養士に知っておいてほしい」と訴えました。

カルテでは得られない情報を"引き出す力"

 では、栄養管理プロセスに基づいた記録をするうえで、何を意識すべきなのでしょうか。須永氏は、「栄養管理プロセスの中では、栄養状態に問題が生じている根拠と原因を明確にするわけですが、そのためにはまず、①問題となる栄養アセスメントデータを抽出し、②抽出したデータをもとにアセスメントができることが第一です。PESで記載する前のアセスメントをカルテ記録に残していくことが専門職種として重要なのです」と強調しました。
 カルテに記録するということは、患者さんに何かしらの介入をするということであり、そのためにはまず、①すでに他職種によって書かれているカルテを確認する、②得たい情報、必要な情報を確認する(O:Objective data)、③すでに記録されたカルテからは得られない、患者さんおよび主治医・担当看護師から得たい情報を確認する(S:Subjective data)、④その結果、問題点や課題が出てくるのがアセスメント(A:Assessment)で、⑤具体的にどうするのか(P:Plan)、という流れで進めていくと、SOAPによる記録が整理できます。
 須永氏はここに、自身の見解を加えました。
 「カルテの記録の仕方で、『Sは患者が話したこと』と習うと思いますが、私の認識は少し異なります。患者さんに何をしゃべってもらうか? どんな情報を聞き出したいのか? そのために、情報をどのように聞き出すのかということが重要だと思います。こちらが知りたい、把握したいことを患者さんに話してもらうための技術が必要です。それを、栄養指導という短時間で行わなければならないのが難しいところですが、管理栄養士・栄養士はそのスキルを高める必要があります」2019090501_02.jpg

 つまり、カルテおよび患者さんからの情報を収集し、それを分析してさらにまとめる力が、カルテ記録の際に管理栄養士・栄養士に求められるスキルということです。その基本となるのが、知識や経験、想像力、コミュニケーション力で、よりよいアセスメントにつながっていきます。
 さらに、優れた記録ができる人は、何ができる人なのでしょうか? 須永氏はこう分析します。
 「私が尊敬する管理栄養士の先生方は、カルテを一目見たときに、必要な情報が何かをすぐに整理できています。それは、病態や治療の全体像がわかるからです。そのため、情報を見逃さずに、気づくこともできるのです。さらに、得たい情報を具体的に他職種や患者さんに聞くこともできます。たとえば、患者さんに水分摂取について質問するときに、『水分はよくとりますか?』と聞いたら、患者さんは『あまり飲まない』と答えたのに、お茶はよく飲んでいるというケースがあります。質問で使う言葉を具体的にしなければ、間違った情報を収集することになりかねません」
 カルテを見ても次に必要な情報が何かがわからないと、適切な栄養診断にはつながりません。その理由について、須永氏は私見として、「私たち管理栄養士・栄養士の多くは、提示された症例の中からしか考えられない傾向があります。逆から考えることに慣れていないのではないでしょうか? つまり、何を確認しなければならないのか、それを明らかにするために、この検査をしてほしい、というような発想の仕方がまだ不十分だと感じます」と指摘しました。
 続いて、須永氏は実際の症例を一つ提示し、症例とともに若手の管理栄養士が書いたカルテ記録をスライドに映しました。そして、会場の参加者に「午後の演習で、皆さんにも考えてもらいます。どこがどうおかしいか、自分だったらどのようなアセスメントをして、記録するか、を考えてください」と課題を出しました。
 必要な情報を得ることができれば、より有用なアセスメントができ、本質的な要因も探しやすくなります。当然、栄養管理(栄養ケア)計画も明瞭になり、カルテ記録もスムーズになる。この流れが理解できれば、提示された症例の見方も変わってきます。
 そして、"必要な情報"は、当然ながら症例によって異なるもの。講演の終盤では、疾患・病態別の留意点について、須永氏が解説しました。会場を埋め尽くした管理栄養士・栄養士は真剣な表情でメモをとっていました。

"食べる"を支える視点で患者をみる

 最後に、会場からの「管理栄養士の記録として一番大事なことは何だと考えていますか?」という質問に対し、須永氏はこう答えました。
 「患者の"生きる"を支える視点が重要だと思います。その中でも"食べる"ということは、決して制限するものではありません。『管理栄養士・栄養士は食事を制限をするから、会いたくない』と話をいただくこともあります。話してよかったと言ってもらえるようなかかわり方がもっとも重要だと思います。医師でもなく、看護師でもなく、管理栄養士だからこそ、"食べる"ことを支えるという視点で幅広く見たときに、気づくことがあるはずです」

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 カルテ記録は、書くことだけが重要なのではありません。管理栄養士だからこその気づきと思考、行為を残していくことです。その記録一つで、医師や看護師、薬剤師など他職種からの管理栄養士の印象が変わってしまいます。"陳腐"と言われてしまうような記録からは、いち早く卒業しなければなりません。

講師プロフィール:須永将広氏(国立病院機構渋川医療センター栄養管理室長)
2001年、東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学専攻修了。国立松本病院、国立相模原病院、厚生労働省、国立がん研究センター中央病院、横浜医療センターを経て、2017年より現職。2018年~、(公社)日本栄養士会医療事業部常任企画運営委員を務める。

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次回講演レポートは、9月12日(木)に掲載を予定しています。

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