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精神科栄養の発展に力を注ぐ認定管理栄養士

トップランナーたちの仕事の中身♯014

阿部裕二さん(国立研究開発法人国立国際医療研究センター国府台病院 栄養管理室 副栄養管理室長 管理栄養士)

 昨年(2016年)度から公益社団法人日本栄養士会でスタートさせた「認定管理栄養士・認定栄養士」の認定は、管理栄養士・栄養士のキャリア支援を視野に入れた新たな生涯教育制度の一つです。認定管理栄養士・認定栄養士は、臨床栄養、学校栄養、健康/スポーツ栄養、給食管理、公衆栄養、地域栄養、福祉栄養(高齢者・障がい者)、福祉栄養(児童)の8分野で、各分野のジェネラリストとして質の高い管理栄養士・栄養士業務を国民に提供することを目的とし、専門的な知識・技術や職業倫理が必要かつ十分な実務的水準に達していると判定された管理栄養士・栄養士が認定されます。6月26日(月)に開催された平成29(2017)年度日本栄養士会定時総会にて、第一期となった13名の認定管理栄養士・認定栄養士に認定証が授与されました。
 臨床栄養分野で認定管理栄養士に認定された、阿部裕二さん(38歳)。国立国際医療研究センター国府台病院で副栄養管理室長を務めています。

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 阿部さんの日々の業務内容は、入院患者(一般300床、精神135床)の栄養管理、NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)、病院給食管理、入院・外来患者に対する栄養食事指導、各種会議の参加など広範囲に及びます。

阿部さんが普段患者さんに対し、どのような感じで栄養指導しているのか取材するために栄養指導室での撮影中に取材スタッフの栄養相談に応じていただきました。阿部さんの穏やかな語り口とともに的確な質問や、しっかりと聞いてくれていることがわかる相槌、患者さんが食事や運動でできそうなこと、手がかりを親身に、そして真剣に教えてくれる姿は、患者さんに安心感を与えるだろうと感じられました。相談したスタッフは体重が半年で10kg近く増加したことを心配し、運動不足を感じている30代男性でしたが、仕事内容と働き方とともに仕事中にコンビニエンスストアやラーメンチェーン店で選ぶものを聞き出し、身体活動量の低下と炭水化物の過剰摂取が体脂肪として蓄積しやすいことを説明しました。そして、「麺類やご飯だけでお腹いっぱいにしているところを、主食量を調整して、おかずに野菜を摂りましょうか?」、「まずは1日5000歩以上を目安に運動量を増やせたらと思いますが、歩く時間は取れそうですか?」、「3カ月後のために今日から週1回体重を測ることはできそうですか?」と、男性にも取り入れられそうな提案をしていました。そして、阿部さんの栄養食事指導中には、「それ、いいですね!」、「そういうときもありますよね」と、患者さんの生活習慣や行動を褒めたり、尊重したりする言葉が次々と出てきます。

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「栄養食事指導は、日本栄養士会の研修会で学んだNCP(Nutrition Care Process:栄養ケアプロセス)に基づいて進めています。認定管理栄養士取得のために広範囲の病態について改めて学び直したことも栄養食事指導や栄養管理の場面での自信につながっています。栄養指導には老若男女問わず様々な患者さんが疾患の改善や食事療法の習得のために訪れますが、なるべく患者さんの生活状況や気持ちを汲んで、今日からすぐにできることを提案したり、"今が大事なときなので頑張りましょう"と励ましたりしています」

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精神科栄養の研究者として
自記式栄養管理ツールを開発

 病院勤務の傍らで、阿部さんは昨年(2016年)3月まで勤務していた国立精神・神経医療センターの精神保健研究所で、研究生として研究活動も進めています。学校卒業後に勤めた給食会社にて配属された精神科病院で給食業務をしていたときに、患者さんが何度も何度もスプーンで皿をすくった形跡や、何も手を付けられずに下膳された食事を見て、精神科の患者さんの食欲や食事との向き合い方に関心を持ち、「栄養士として精神科の患者さんにできることは何か」を考え始めたのが、阿部さんが精神科栄養を専門と志すスタートとなりました。その後も、全国精神科栄養士協議会などで仲間と共に精神科における栄養管理・栄養指導の研鑽を続け、精神科栄養の発展に力を注いでいます。

 昨年には、同研究所社会精神保健研究部の伊藤弘人部長、全国精神科栄養士協議会の西宮弘之会長らとともに、精神科領域における自記式の栄養管理ツール「わたしの食事記録」と「わたしの体重記録」を開発。各地の精神科領域の医療機関で使われている食事記録用紙を収集して特徴を比較検討し、現在求められている地域包括ケアと多職種連携の観点を加え、そのうえで精神科疾患を有する患者さんにも負担が少ない書式を考案しました。

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「入院中は食事療法が十分できても、退院後に食事療法が困難となってしまう患者さんは少なくありません。外来の栄養食事指導でこの自記式栄養管理ツールを用いて、患者さんや医療従事者にとって使いやすく、効果の高い栄養管理・栄養指導方法について研究を続けていきたいと考えています」

新たに踏み出すことで、学びが深まる

 阿部さんは小学生の頃から料理が好きで、スパゲティーやカレーなど自分で作れる料理がどんどん増えていくのが楽しく、家庭科の授業中には、にんじんの皮をピーラーではなく包丁でむいているところを見学に来ていた他校の先生に褒められたことを懐かしく覚えているそうです。また、人の身体や健康に興味があり、高校生のときには「病院の栄養士として働きたい」と将来を定めていました。

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 環境への対応力の強さは、阿部さんの特筆すべき資質かもしれません。国立病院に勤務していることから、いろいろな特徴を持った病院を経験し、現在で7病院目になりますが、「新しい職場に移れば、また新たに学ぶことが増えますが、それが自分の財産になりますから」と、前向きです。さらに社会人になってから病院で働きながら通信制の大学、大学院と進学して心理学などを学び、修了。その後は日本心理学会認定心理士、日本精神科医学会認定栄養士の資格を取得し、この度、日本栄養士会認定管理栄養士の認定も受けました。
 「日本栄養士会認定管理栄養士・認定栄養士は自分が所属する分野の専門性を保証するものです。必要な単位を揃えるのはハードルが高いかもしれませんが、学び直したり学びを深めたりすることは専門職として必須です。このベースの資格をもとに、管理栄養士・栄養士としてさらに専門性に磨きをかけていきましょう」と、仲間たちに呼びかけます。

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プロフィール:
平成12(2000)年、東京農業大学短期大学部栄養学科卒業。平成14(2002)年、管理栄養士免許取得。日清医療食品(株)、国立甲府病院、国立小諸療養所、(独)国立病院機構東京医療センター、同機構相模原病院、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターを経て、現職。平成29(2017)年、(公社)日本栄養士会認定管理栄養士(臨床栄養)。日本心理学会認定心理士、日本精神科医学会認定栄養士。

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