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栄養学と教育学を横断したアプローチで、行動変容を促す食育を目指す

トップランナーたちの仕事の中身#119

川嶋 愛さん(国立大学法人千葉大学教育学部附属小学校、管理栄養士)

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 千葉大学教育学部附属小学校の栄養教諭として食育を知識としてだけでなく、正しい食習慣の実践につなげることを目指す川嶋愛さん。栄養学に加え、新たに教育学を学ぶことで食育、学校給食の可能性を探る取組について伺いました。

大学の授業で衝撃を受け、進路を変更

 国立大学法人千葉大学教育学部附属小学校(以下、千葉大附属小学校)で栄養教諭を務める川嶋愛さん。管理栄養士養成校への進学理由は、病院や行政、学校といった一般的な就職先をイメージしていたといいます。転機となったのは大学3年時に履修した栄養教育の授業でした。それまで知らなかった管理栄養士の新たな可能性や役割に触れ、目からうろこが落ちるような衝撃を受けたといいます。「この先生のもとで深く学びたい」と強く思い、食生態学研究室への所属を希望しました。

 「食生態学とは地域社会で暮らす人々の望ましい暮らしの実現に向け、『食』を通じて、何ができるのか、何をなすべきかを追求する学問です。さまざまな地域で生活する人々の食の営みを、置かれた環境との関わりから構造的に明らかにしていく点に大きな特徴があります」と川嶋さん。
 「大学生、大学院生の頃は、地域で生活する人々の食事調査を数多く経験させていただき、人々の食の営みを目の当たりにしました、その実地での体験を通して、学童期における食習慣の大切さを強く実感しました。こうした学びが原点となり、大学院ではこどもの朝食摂取に関する研究に取り組みました」
 大学卒業後、大学院に進学して栄養学の修士を取得したのち、同大学に研究員として勤務しました。その後、東京都港区役所、東京都内の私立小学校の学校栄養職員を務め、2020 年に現職である千葉大学へ就職し、千葉大附属小学校の栄養教諭として勤務しています。

柔軟な実践体制と試行錯誤で探究する「自ら考える食育」

 千葉大附属小学校では、自校式給食を実施しており、川嶋さんは献立作成、調理指導等の給食管理運営と、食育授業、給食時間に行う給食指導を担当しています。
 「本校は国立大学の附属校であることから、学習指導要領に沿った授業の他、現代を取り巻く課題についての研究も進めています。いくつかの観点から専任教諭が配置され、私は食育推進をはかるため、学習目標に沿って授業の内容や教材、学習活動等を一連の学びとして組み立てる『単元開発』をし、職員会議で年間計画を示して、日々研究、授業実践をしています」

 実践を重ねて見えてきたことは、こどもの食行動の変容まで評価できていないことだったといいます。
 「栄養学で扱う食に対するアプローチだけではこども自身がどのように学びとっているのかの過程が見取れず、教育学的なアプローチによる見取りの必要性を感じていました。千葉大学教育学部教授でもある校長からの『こどもが自分の頭を使って、道筋を立てて考えるような授業が必要』という言葉を頼りに、試行錯誤をしながら取り組みました。壁にぶつかるたびに校長に相談し、それを受けて手直しを繰り返し、現在の指導へたどり着きました」

食育授業と給食を連続した学びとする試み

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 川嶋さんが特に意識しているのは、給食時間における指導と食育授業を結び付けた学びとして構成することでこどもの食の行動変容を促すこと、知識を覚えさせるだけでなく、実物等を用いて可視化することで実生活に落とし込みやすい仕組みをつくることです。
 「例えば、小学校低学年で栄養素と食事バランスについて学ぶ際、『三色食品群』を用いることが多いですが、各色の栄養素の働きと食品例を説明してもこどもが自分たちの実生活の食事に結び付けにくいという課題があります。そのため、本校の食育授業では『食事バランスガイド』を活用しています。こどもにとって身近な料理ベースの教材を活用することで、何をどれだけ食べたらよいのか学習します。その時に、自分の体に必要な量の目安として給食を位置付けています。
 例えば、ある時の授業では、まず白飯のフードモデルを用いた重量当てクイズで興味を引き、その後、対象学年に必要な1食分の適量(150g)を実物の白飯で実際に盛りつける学習を行いました。この時のレギュレーションは、『一度は適量となる150gを盛ってみる』ことです」
 使用する食器は、給食時のものなので、盛り付け開始直後は給食の喫食量に意識が向いていますが、「家ではこれぐらい食べているよ」と白飯をきっかけに自分自身の家庭での食事へと関心が広がっていきます。
 「こどもは、自分で盛ってみることで適量を意識せずに食べている量が、適量より少なかったり多かったりすることに気付きます。このタイミングで、どうやって食事のバランスを取ればいいかを問いかけると、『家では少なめだから、昼の給食はちょっとおかわりしてもいいかな』というように、自分に合った食事バランスの取り方を考え始めます」

 こうした食育授業の後、川嶋さんは給食の配膳時にはかりを用意し、こどもたちに自分の適量を量って食べることを提案し、実践に導いていきます。
 「実践を1回で終わりにするのではなく、時折、配膳時にはかりを置いておくようにしています。すると、自主的に自分の適量を量って食べるこどもが見受けられるようになり、行動変容に結び付いたことがうかがえます」
 川嶋さんが行動変容を促す際に気を付けているのは、強制しないことだという。
 「行動変容の手法の1つにナッジ(Nudge)理論があり、ナッジは英語で軽くつつく、行動をそっと後押しするという意味です。食育授業では、こどもたちが興味を持つ仕組みをつくり、そっと背中を押す指導を大切にしていきたいと考えています」

教育学を学ぶため、大学院に進学

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 川嶋さんは現在、千葉大学大学院教育学研究科修士課程に在学しています。
 「単元開発について相談していた校長から教育学を学んでみては、と声をかけていただいたのがきっかけです。教育学では、学習内容の研究も大切ですが、それと同じくらい学習によるこどもの変容が見られた際、なぜ変化がおきたのかという要因を分析する研究があります。食育では、ほとんどなされていないのが現状です。私は行動変容を重視した食育授業を行っていますので、よりきめ細かくこどもの行動変容を分析できるようになりたいという思いもあり、進学を決めました」

 給食と食育授業を一体化した食育実践について学会発表や論文発表を行っている川嶋さんですが、栄養学と教育学を横断した研究アプローチについて関心を持ってもらえる機会が増え、学校給食を教育研究のフィールドとして活用する取組は、栄養学、教育学の関係者から評価が高まっています。
 「今後は、学校給食を活用した食行動に関する研究を発展させていき、学校給食がこどもの生涯にわたる健全な食習慣形成に与える影響をエビデンスとして構築し、広く社会へ還元することを目標としています。学校給食は単に食事を提供する場ではなく、こどもの未来の食習慣を育む学びの場です。栄養教諭としては、一人ひとりのこどもの食習慣に向き合い、現場で生じる課題に対して研究によって科学的根拠に基づく改善策を提案し、実践していくことが重要です。栄養学で用いられる行動科学理論と教育学的な視点やアプローチを取り入れながら、学校給食の新しい価値を見いだし、発信していきたいと思います」

プロフィール:
2012年日本栄養大学大学院栄養学研究科を修了。港区役所学務課保健給食係、学校法人東洋英和女学院小学部勤務を経て2020年より現職。千葉大学大学院教育学研究科在籍。東京都栄養士会所属。

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