研修会もおトクな会員価格で参加!

入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. 【講演レポート ♯01-3】フレイル対策こそもっとも重要な健康対策だ

【講演レポート ♯01-3】フレイル対策こそもっとも重要な健康対策だ

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯01-3

フレイル対策こそもっとも重要な健康対策だ

2018080901_4.jpg

 最後に国立健康・栄養研究所所長の阿部圭一氏が登壇し、「メタボからフレイルのスイッチング―フレイル対策の重要性と栄養―」と題し、フレイルの観点から講演を進めました。

 冒頭で、「人の生涯においてはメタボ対策もフレイル対策も不可欠だが、メタボという言葉だけが世間に広まっている現状。これはメタボ対策の成功の1つとも言えるが、やせることだけが健康的であるという一方的な誤解が生じてしまっている。専門職である管理栄養士・栄養士の皆さんにはまず、人々に体重を維持する必要性を伝えてもらいたい」と会場に呼びかけ、「高齢者においては、フレイル対策こそもっとも重要な健康対策だ」と強調。フレイルには、筋肉量が低下する肉体的フレイルだけでなく、認知機能の低下やうつなどをもたらす精神的フレイル、引きこもりや家から出ないことによって活動量が減ってしまう社会的フレイルの3つがあると解説しました。

 さらに、肉体的フレイルのサイクルとして、「筋肉量の減少による基礎代謝の低下→エネルギー消費量の低下→食欲の減退→食事摂取量の低下→必須栄養素の摂取量低下→低栄養→体重減少によるさらなる筋肉量の低下」という負のスパイラルを紹介。ここに、疲労感の増大や活力の低下、筋力低下による歩行速度の低下、活動量の低下といった社会的・精神的なフレイルも加わることを示しました。

20180809_s4.jpg

 また、肉体的フレイルの1つの現象である歩行スピードと寿命の関係について、「65歳男性で時速6km弱で歩ける人の平均余命は30年程度、一方で時速3km程度でしか歩けない人の余命はその半分。女性だとさらにその差は大きく、最大歩行スピードと寿命は男女ともきれいな相関がみられる」と研究結果を紹介し、高齢期において筋肉量がいかに重要であるかを強調しました。
 「小松先生の講演にもあったように、高齢者だけでなく急激な体重減少によるダイエットをした人も筋肉量の低下を起こしているので、社会的、精神的な問題が生じている可能性がある。高齢化も若年層のダイエットもこの点が大きな課題だ」
 引き続き阿部氏は、国民健康・栄養調査の年次推移をグラフで示しながら、たんぱく質摂取量の平均値は年々減少していること、一方で脂質摂取量は若年層だけでなく70歳以上の高齢者でも増えている傾向があることを紹介したうえで、「ここで1つ重要な観点がある」と切り出しました。
 「出納試験の結果から、成人と高齢者ではたんぱく質摂取量が同じだとしても、窒素平衡維持量では3割ほど差があります。高齢者は同化に対する抵抗性があり、分かりやすく言えば効率が悪いということ。高齢者は3割ほど余計にたんぱく質を摂取したほうがよいのではないかということが、このデータから分かる。さらに、数々の論文の結果から、たんぱく質摂取量については我々も体重1kg当たり1~1.2g/日が目安と考えており、また、たんぱく質摂取は1食に限定せず1日3食それぞれで20g以上ずつ摂ったほうが良いという指摘もある」と述べつつも、実際には朝食および昼食については女性と75歳以上の高齢者では7割程度がたんぱく質20gを満たしていない現状を示しました。

20180809_s5.jpg

 「フレイル対策には運動と栄養の両方が軸になるが、たんぱく質摂取量は体重当たり1.6g/日以上に増やしてもレジスタンス運動の効果は最大化できない」として、栄養指導で実際に目指していくたんぱく質摂取量は多くても体重当たり1.6g/kg/日を目安に挙げました。

メタボとフレイルのスイッチング

 阿部氏は最後に、メタボとフレイルのスイッチングについて解説しました。
 「簡単に言うと、メタボは体重が増えないようにコントロールしよう、フレイルは体重が減らないようにしようという2つの強いメッセージがある。それは何歳から変えたらいいのか? 健康に関するこの2つの相反するメッセージは人々に混乱を与えることから、統一性が必要だ」と指摘しました。

 そして、フレイルに到達する年齢は高齢者を4群に分けた場合、上位1/3程度が95歳、40%程度が87歳、25%程度が60~77歳であるという研究結果を紹介し、「中村先生の講演にあったように、何歳からフレイル対策を始めたらいいかということは、個人差が大きすぎて明確には出せない。だが、これだけ格差が大きいということは、この差を縮める余地があると言える。近年、患者の遺伝子情報やライフスタイルの違いを考慮した医療のことをPrecision Medicineと呼ぶが、管理栄養士・栄養士の皆さんにはぜひともPrecision Nutrition、きめ細やかな栄養指導をしていただきたい」と参加者にメッセージを送りました。

 そして、メタボ対策・フレイル対策で相反する「体重を減らそう」、「体重を増やそう」の2つのメッセージについては、「メタボ対策もフレイル対策も、『筋肉量の把握と維持』が統一メッセージである。いずれにおいても、たんぱく質の摂取が重要であり、メタボ指導においては体重だけでなく体脂肪量のコントロールが重要である」とまとめました。

20180809_s6.jpg

次ページ>>
管理栄養士は、慎重なさじ加減が必要

<前ぺージ (1) (2) (3) (4) >次ページ

講演資料ダウンロード
日本栄養士会会員の方は、当講演の資料を記事最終ページよりダウンロードいただけます。
また、他講演の資料や日本栄養士会の資料は「日本栄養士会の資料」ページからダウンロードいただけます。

賛助会員からのお知らせ